4月11日 読売歌壇栗木京子

今週の選は「うつむいてふたの開いたランドセルこぼれた夢はひろえばいいよ:桃原 晴美」これはもう新一年生でしょう。一年生にはランドセルはとても大きく見えます。なにか落としたのか珍しいものをみつけたのかとっさにうつむいたのですがランドセルの留め金が外れていたのですね。なかの本やノートがダーと飛び出してしまいました。そのとき夢まで一緒に飛び出してしまいました。大慌てでノートも本も拾いあげさっき落としてしまった夢も丸めてポイとランドセルの中に突っ込みました。もしかしたら落としたのとは違う夢を拾い上げたのかのかもしれません。この作者は同年代かそれより少し大きめの孫がいる「おばあちゃん」なのかもしれません。なんとも優しい目でこの情景を見ています。大きくなれよ、元気に育てよ、友達できたか、給食はおいしかったかなど一杯の言葉と愛情がこの歌の中には詰まっています。お隣の「一星君」は4年生になりました。

4月3日 読売歌壇栗木京子

今週の選は「雪やなぎ小米のごとく白白ときらめくあした亡き人を偲ぶ:山田和令」もうこれは読んだ通りの歌ですね。雪柳はその花の色そして散った様から小米花との別名をもっています。雪やなぎの散った様子をみているともう鬼籍に入った人のことを思い出すというのです。友達なのか先輩なのか生きている時に一緒につるんでいた人が大好きだった雪やなぎ。勝手な想像ですが春になると律儀なほど毎年枝にびっしり小さな花をつける雪やなぎが好きな人、きっと真面目で芯の強い方だったのでしょう。毎年この時期になると思い出すのですね。今、家の庭では海棠が満開ですが私はこの花を見るたびに母のことを思い出します。こんな派手な花が好きだったんだな、いかにも賑やかなことが好きだった母好みだな等と生前のことが思い浮かびます。亡くなってから早17年普段は思い出すこともないのですがこの時期になると海棠の花とセットになって在りし日を偲んでいます。

 

3月27日 読売歌壇栗木京子

今週の選は「マーガリンの値段据え置きと手に取れば三百グラムになり果てている:稲本真由美」よくある手です。このところは特にいろんなものが値上がりしています。牛乳、食用油をはじめ物価の優等生と言われてきた卵も値上がりしその影響は多岐に亘っています。メーカも原材料の値上分はそのまま価格に転嫁するところ、あるいはこのマーガリンのように値段は変えずに内容量を減らすところさらには値段を少し上げ内容量も少し減らすところなど各社様々な対応です。スーパーは基本的には価格が他店に比べて安いことを「ウリ」にしているところが多いのでメーカーの言ってきた推奨価格をそのままには出しません。その前にメーカーと問屋間の協議があり問屋とスーパーのバトルがありという経緯をたどり消費者が目にする値段になります。大手企業は賃上げを発表していますが大多数の中小企業はなかなかそうもいかないでしょう。物価は確実に上がっているのですが。

 

 

3月6日 読売歌壇栗木京子

今週の選は「白鵬の断髪式に思ひ出すお父さまといふ美しき呼び名:大武美和子」この作者も感じたのですね。私も白鵬の断髪式で娘さんがお礼の言葉をのべていたのだがその時白鵬に向かって「お父様」と呼びかけたのには驚きました。なんとなんと今や死語かと思っていたこんな言葉を使うとは。私などは子供へのしつけが甚だできていなく娘は「おとん、おかん」と呼びます。息子たちは何と呼んでいるかなア。多分面と向かっては呼ぶんでないように思います。私は小さい時は「とうちゃん、かあちゃん」小学高学年から学校のみんなに合わせ「お父さん、お母さん」と呼び始めたように記憶しています。亡くなった両親のことは今下の名前で呼んでいます。世間ではパパ、ママが圧倒的に多いのでしょうが一部お坊ちゃま、お嬢ちゃま学校ではまだ「お父様」は残っているのでしょう。それにしてもモンゴル出身の白鵬の娘さんから美しい言葉を聞かせてもらいました。

2月27日 読売歌壇栗木京子

今週の選は「切断した右手中指のいとしさよ春になったら芽吹くといいね:小暮みち子」これはなんといえばいいのか。学生時代家業を手伝っていて旋盤で指を2本切断した先輩がいました。すぐに切断部分を縫い合わせ外見はくっついてるように見えますが神経は繋がっていないので自由には動かせません。ハンドボールのキーパーだったのですが痛みを感じないと危険なので選手は止めました。私は頸椎が神経を圧迫し今指が動かしにくい状態でとても不自由です。切断に比べればはるかに軽症ですがとてもこの作者のように前向きにはなれません。パラリンピックで活躍している選手たちも無くなったり不自由になった体を悔やむのではなく残っている部分を最大限に活かし健常者ではありえないパフォーマンスをしています。「悔やんでも詮方ないなら前向きに」とは心の持ちようなんでしょうがなかなか出来ることではありません。ましてや作者のように笑いにしてしまうとは。

2月20日 読売歌壇栗木京子

今週の選は面白いテーマです。「統合後の新名称は科学大ピンとは来ぬが慣れて親しまむ:三沢康正」東京工業大学と東京医科歯科大学が統合して仮称ですが東京科学大学になったのですね。ともに国立の名門大学でしたので卒業生、関係者はその名前がなくなるのには抵抗もあるのでしょうがこれも時代の流れなのでしょう。過去にも東京水産大学と東京商船大学が統合して東京海洋大学にまた旧都立大学と東京科学技術大学など4校が統合し首都大学を経て都立大学になどの例があります。大学法人になってから各大学は経営のことも考えなければばならず昨今は大学進学率が50%を超えているようですがなにしろ少子化の影響で大学の経営が難しくなってきており私立では廃校の話も現実味を帯びています。大学統合も生き残り作戦の一つですしまぐろの養殖で名を売っているところ授業を英語ですることを売りにしている大学などあの手この手で存続を図っているようですね。

2月14日 読売歌壇栗木京子

昨日は休刊日だったので本日掲載。今回分は「一晩にこれほど散りし山茶花を眺めてをれば一片も散らず:中島やさか」そうなんです。椿と山茶花の花は見た目はそっくりなんですが椿は花首から散るのに対して山茶花は花弁が散るのが特徴なんです。朝起きたら山茶花の花が一杯散っていたのですね。それではとずっと眺めていたけれどまったく散らなかったというのです。夜中に何か不思議な力が働いてこんなにたくさんの花を散らせたのかも。私がしっかり散るさまを見ようとしているのに一片も散らないのだからと多少がっかりしているのかもしれません。山茶花もそうですが金木犀も見てないところで何でもないように大胆に散ります。桜は少しの風にひらひらと散るので地面に届くまでを見届け余韻も残りますがズバンと散ってしまった山茶花はがっかり気分しか残りません。しかし何ともすっきりと散ってしまうさまは逆に見事なものだとも感じられます。

2月6日 読売歌壇栗木京子

今週の選「亡き父母の面影やどす我が顔に向かいて「おはよう」今日を始める:高山豊子」不思議なもので若い時から今に至るまで顔の印象は随分変わってきていますが年を取るにつれだんだん父母に似てきているように思います。弟は私に「お父さんと同じ格好をして歩くね」といいます。腰が悪かったりするのも似てきました。鏡に映る顔も何となく後ろから父親が出てきそうな雰囲気です。遺伝子を受け継いでいるのですから当たり前といえばそうなのですがちょっとした仕草、しゃべり方、歩き方などまでは遺伝しないと思いますがなんか似てき始めました。昨年は父親の今年は母親の17回忌です。頭に浮かぶ両親はいつも若くそして私もそれより若いのです。夢に出てくるときは。家の動くアルバムのなかにそんな両親の写真が入っています。孫たちの写真と一緒に。実際には会っていないジジババと孫たちがアルバムの中で会話をしているようです。

1月30日 読売歌壇栗木京子

今週の選はまさに時期を得た作品です。「今日もまたオレオレもどきの詐欺電話真摯な言葉で神使のごとく:後藤 憲之」つい最近90いくつの女性がひどく殴られ殺され金品を盗まれた事件がありましたがこの犯人が実はオレオレ詐欺を全国で実行しているグループの主犯で今フィリピンの入国管理事務所に収容されていると報道されています。我が家でも一度長男を装った電話がありました。話を聞いていると長男ではないことが分かり無事に済み、以降家の電話は常時留守電にしています。声だけでは判別しにくく敵はいかにもそれらしい話をします。下手な役者よりリアルで次々に話を展開させいくつものネタも用意しています。言葉巧みにそして心の隙間に入り込んでくるような心理戦も使います。我が家には渡せるような金は家にも他にもありませんがお金持ちの方はお気を付けください。一生かけて蓄えた大切なお金を猿芝居の連中に持っていかれるのは悲しすぎます。

1月23日 読売歌壇栗木京子

今週掲載分は昨年末締切の作品なんだろう。ウクライナの子供たちに夢を与えようとクリスマスに地下で灯をともしたというのが選ばれていましたが私は「森貫主の書きし「戦」の字したたりて思う戦場に流るるものを:村上秀夫」に一票。年末恒例の清水寺貫主の今年の漢字は「戦」でした。もう2年以上戦は続いています。報道では毎日ウクライナのロシアの戦死者数を伝えます。まるでスポーツ番組で〇対△というように。森貫主の筆の先から流れているのは累々しい血であり屍。仏教者の貫主がまるで大勢の犠牲者を供養しているようです。戦争ですから誰かが死ぬのは不思議ではないのかもしれませんが、それが私の子であり兄弟であり親しい人達だったらきっと血涙を流すことでしょう。先の見えないこの戦がいつまで続くのやらそしてどれだけの人たちを犠牲にすれば気が済むのだろうか。私には祈ることしかできませんが、何とか一刻も早く終結して欲しいものです。