7月11日 読売歌壇栗木京子

今週の選は「遠花火音だけ聞こゆる「港の日」コレヒドールに父は戦死す」こんな思いを残す人はもう随分減ってしまったことでしょう。私は小さい頃母親から「爺ちゃんはフィリピンのルソン島バギオで戦死した。戦後当時部下だった人が亡くなった場所の石を持ち帰ってくれた」と聞きました。勿論その爺ちゃんは見たことがありませんが40年近く前会社の出張でバギオに行く機会があり大勢の日本兵が亡くなった場所だというところで手を合わせてきました。その後祖母ちゃんと母親たちは長い間心に引っかかっていた爺ちゃんに会いにバギオまで行ったと聞きました。女手一つで5人の子供を育て上げた祖母ちゃんの気持ちはどんなだったか、亡き爺ちゃんに子供たちの成長と必死に頑張ってきたことの報告をしたのでしょう。こんな経験をして来た世代の人たちがいなくなり、最近何となくきな臭い花火の音が遠くでなり始めた気配がするのを苦々しく思っています。

 

7月4日 読売歌壇栗木京子

昨日はここにもこれないほど多忙でした。今週の選は栗木氏お勧め3首とは違い「遣られても仕返ししてはならないと中村哲氏はことば遺せり」2019年12月4日タリバンにより取り返しのつかないその命を奪われた中村哲さん。アフガニスタンでの地道なそして具体的な活動はアフガニスタンの人たちのみならずただ憧れしか持ちえない私の心も震わせました。なんで、どうして彼が、彼の命が。と惜しむ気持ちは何年経っても消えません。危険極まりない当時のアフガニスタンで一方的に与えるのではなく彼らと一緒になって自らの体を動かし生きるすべを開拓していったのですね。現地の人たちに溶け込み一歩ずつ夢を実現していったのですね。彼の命を奪うのにどんな理由もありえません。きっと殺人犯も今頃は「とんでもないことをしてしまった」と悔やんでいることでしょう。こんな日本人がいたんだと過去形で語ることの悲し、虚しさ。この作者と同じ思いです。

6月26日 読売歌壇栗木京子

今週は栗木さんが推す3句以外から。「懸命にそして静かに父は今百一回目の夏を迎える:夫馬 和子」実は義父が先日98歳になりました。彼はもう数年誤謬性肺炎ということで入院していますが義弟の話によると身の回りのことは全部自分で出来るし頭もごく普通、言葉も生粋の博多弁でしゃっきりしているようです。この間長いこと空き家になっている自宅をもう住むこともないので処分してくれとの話がありました。錠はしてあるのですが泥棒に入られ茶道具や亡くなった義母の宝石などがなくなっているようです。またハクビシンらしい動物のフンもみられるとのこと。切り出しにくい話だし義父が亡くなってから処分すると相続が面倒になるのですが、まだ頭がしっかりしている彼から話が出てきたので次男が手続きを進めているようです。若い時から頑固一徹だったという義父もその片鱗は残しながらそれでも随分丸くなり子や孫の見舞いを楽しみにしているようです。

 

6月19日 読売歌壇栗木京子

今週の選は「ファミレスでローマという名のロボットがピザ運び来てピタリと止まれり:高山 豊子」私はこのロボットにはお目にかかったことはありませんが回転寿司屋で、あるいは違うファミレスで、あちこちでいろんなロボットに出会います。ただの運搬機みたいなものから子供が喜びそうないでたちのものまで様々な恰好をしています。注文はテーブルに置いてある端末で行いロボットが食事を持ってくる、何か用があるときはベルを鳴らすことになっており店員さんと話すことはほとんどありません。これですと人員が削減できます。わざわざ高い人件費を使って店員さんが食事をもってくる必要はまったくありません。私は若い人がこういう接客業につくのはちょっともったいない気がしています。どうしても人出が必要な厨房には時間を調整しながら働きたい人、意欲のある高齢者で賄いホールサービスはロボット大いに結構です。この作者は少し驚いている風情ですが。

6月13日 読売歌壇栗木京子

今週の選は「主脳らよ被爆写真を凝視せよ空から死が降ってきたのではない:若林明良」先日のG7サミットでは関係者の努力のおかげで首脳たちに平和資料館を見る機会が設けられました。こんな悍ましいことが我が身に起こるとしたら誰も原爆など持たないでしょう。核抑止力という大義名分で原爆を持ちたがる人たちはゆめゆめ自分たちには起こらない、自分たち一族は被害を避けられると思っているのでしょうか。「核も辞さない」という脅し文句は言われたほうもそれがチキンレースであり実際にあり得るとは信じてないから効果的なのであって、もし本当に使う可能性があればそれはすなわち人類の滅亡につながり、万が一生き残ったとしても戦争の勝者としてではなく「かつて地球上で反映していた人類の生き残り」と次の征服者に珍重されるだけです。地球を何回も破滅させるだけの原爆を持ちながらそれでもなお人類滅亡の終末時計を進ませるのでしょうか。

 

5がつ30日 読売歌壇栗木京子

今週の選は「スーパー閉まるバスもないから一時間歩いていこうかこの街出ようか:前田佐和」何とも切実です。確かに人口が多く商売が成り立っていたからスーパーもあったのですが若い人は街に残らず人口は減るばかりなのでスーパーも閉店してしまったのですね。でも間違いなくここで生活している人はいるのですから困ってしまいます。テレビで巡回スーパーのことを取り上げていましたがやはり今までスーパーを利用していた方にとっては物足りません。しょうがないから一時間かけて最寄りのスーパーまで歩こうかと考えたものの帰りは荷物を持っています。再々行くのもかったるいので少しまとめて買おうかなどと想像するとげんなり。いっそのことこの街を出てしまおうかというのです。生まれ育った場所なのか少々遠くても我家が欲しいと買ったのか分かりませんが悩ましいことです。昨今空き家のことが話題になりますが住む人はいてもこんなことが起きるのですね。

5月22日 読売歌壇栗木京子

今週は彼女が選んだ3首からではないものに注目しました。「この先もつまづかぬため右左歯磨きしながら踏む青竹を:小野ひとみ」小野さんも健康を気に掛ける年齢なったのでしょう。一生自分の歯で食べたい、足が弱ってきたら歩けなくなったらどこにも行けなくなるということでしっかり歯磨きをし青竹を踏んでいるのですね。幸い私は歯が丈夫で虫歯はないのですが前歯を一本欠かせ今はブリッジが一本あります。膝と腰が悪く少々歩く格好は悪いのですが毎日通勤で1時間半ほど歩いています。歩く速度は甚だ遅く毎日会う若い女性からはスイスイおいて行かれます。家に帰ってからは自己流の体操をし固まった体をほぐしています。転んで骨折したとか頭を打ち、以来起き上がれなくなったなどという話を聞きますので身体が動く間は何とか自前で活動したいと思っています。同年代でホノルルマラソンを走ってきた人もいますがそんな大それた目標ではありません。

 

5月18日 読売歌壇栗木京子

今週の選は「どくだみはてこずる草ぞ根気よく筍掘るがに根をたどりひく:多田郁子」これはもうこの時期庭では必ず見る光景です。とにかく強くどこにでも生え、抜いても切っても何度でも出てきます。可愛らしい白い花はなかなか捨てがたいのですが手に付いた臭いはいつまでも消えません。その臭さの成分が利尿作用をはじめとして色んな効能があり薬草として昔から使われてきたのですね。まず茎を抜きにかかったら手の力を抜きそろりそろりと引っ張ります。少し斜めにしながら出てくる茎の下の方を握り直し浅いところに根を張っている場合は根気よく元をたどっていきます。時には随分離れたところまでたどっていくと行き止まりになることがありますがこれでいっちょ上がり。深いところに入っている場合は茎の根元を掘って山芋を引っ張り出すように注意深く土を取り除きながら掘っていきます。除草剤は使わず苦労しながら抜いている作者の姿が目に浮かびます。

5月9日 読売歌壇栗木京子

今週の選(10選のうち3選に栗木氏の評が入っておりその3選のこと)はどれも私の興をそそるものばかりですが強いて「ハンカチを捜しに駅まで引き返す今後のわれの戒めのため:鈴木基充」にしてみました。実に身につまされる作品です。家では妻と「あれなにしに来たんだっけ?」としょっちゅう言い合っています。物を置いた場所を忘れ、今していることを忘れ、テレビに出てくる有名人の名前を忘れ よくもまあこんなに忘れるもんだと我ながら感心しています。私は会社を出るときに電気を消したか、エアコンのスウィッチを落としたか不安になり何度会社に戻ったことか。10分歩いて気づき10分かけて戻り異常ないことが分かったときはよかったのやらあほらしいのやら。「粗相がないのでこれでよし」と自らを励ましてからでないとすんなりとは帰れません。この作者のように大事に至らないよう普段から注意しておくべきですね。他の2選はどうぞ読売新聞で。

 

4月25日 読売歌壇栗木京子

今週の選は「諸事情が卵の価値を上げてゆく変わらぬものは卵の重さ:杉山 太郎」女性の作品かと思ったら男性でした。多分お一人か退職後で奥様から買い物を言いつけられている方とお見受けしました。そうなんです卵はずっと物価の優等生といわれており価格の上下がほとんどなかったのですが、このところ急激に値上がりしています。餌代、電気代の高騰、病気による殺処分で卵を産める鳥の数が少なくなったなどが理由のようですが何しろ卵は必需品です。料理にもケーキにも使います。さすがに養鶏場も価格転嫁をせざるを得ないし、普通は中々値上げを認めないスーパーも今回はすんなり値上げしました。卵掛けご飯はぜいたく品、朝食の目玉焼きはなしなんてことになってしまいました。作者の表現とは違い私には一個の卵が随分重く感じられます。そういえば毎度昼食でお世話になっている「親子どんぶり」も値上げしました。これは非常に痛いのであります。