7月11日 読売歌壇栗木京子

今週の選は「遠花火音だけ聞こゆる「港の日」コレヒドールに父は戦死す」こんな思いを残す人はもう随分減ってしまったことでしょう。私は小さい頃母親から「爺ちゃんはフィリピンのルソン島バギオで戦死した。戦後当時部下だった人が亡くなった場所の石を持ち帰ってくれた」と聞きました。勿論その爺ちゃんは見たことがありませんが40年近く前会社の出張でバギオに行く機会があり大勢の日本兵が亡くなった場所だというところで手を合わせてきました。その後祖母ちゃんと母親たちは長い間心に引っかかっていた爺ちゃんに会いにバギオまで行ったと聞きました。女手一つで5人の子供を育て上げた祖母ちゃんの気持ちはどんなだったか、亡き爺ちゃんに子供たちの成長と必死に頑張ってきたことの報告をしたのでしょう。こんな経験をして来た世代の人たちがいなくなり、最近何となくきな臭い花火の音が遠くでなり始めた気配がするのを苦々しく思っています。