9月20日 読売歌壇栗木京子

今週の選は「君の手が長く愛したマグカップ手をつながんとコーヒーを飲む:黒田道子」きっと長く連れ添った夫君なのでしょう。生前は手をつなぎ歩くということもあまりなかったのだが彼が飲んでいたコーヒカップの把手を握りコーヒーを飲むとまるで目の前に彼がいるかのようにその体温までもが伝わってくるのですね。もしかしたらいなくなってからしばらく経ってからのことかもしれません。間もない頃だとまだ生前の面影があまりに出てきてコーヒーを楽しむことも彼の思い出に浸ることも出来ないでしょう。喧嘩もしたけど罵りあいもしたけど今振り返ってみると彼はやはり大事な人だった。二人で飲んでいたコーヒーより今、目の前に浮かぶ彼の顔とともに飲むコーヒーは思い出と懐かしさのデザートがほどよく甘く苦くとてもリッチな気分になれます。こうしてコーヒーの把手を握る度にいつまでも彼のことを忘れないでいたい。いい人生だったねと囁きながら。