3月12日 震災の傷跡

「沈黙の心の海にうかまんとしてうかみあへずたゆたひてあり一つの言葉:窪田空穂」あの震災から10年が過ぎました。松戸で大きな揺れを感じただけの私は家族を亡くし家が壊れ故郷を喪失しひたすら耐えて生きている方々に掛ける言葉は思いつきません。彼らに心の滓となって沈殿している大きな塊はきっといつまで経っても消えることはないのでしょう。人は忘れることで生きています。しかしどうしても残っている得体のしれないものがきっと心の奥底に留まりもしかしたらそのことが彼らを黙らせているのかもしれません。彼らの沈黙の深さがいかほどなのか、そしていつになったら滓がほぐれてくるのか私には知りようもありません。出来ることは唯彼らが何とか重いものを背負いながらでも、心の奥底に横たわる深く長い沈黙が少しでも早く溶け流れ言葉になって出てくる日を待ち望むばかりです。そしてそのときになってようやく彼らと言葉が交わせるのでしょう。