3月16日 営業担当者の雑記
今日の日経夕刊に面白い文章がありました。中野京子氏というドイツ文学者が「翻訳不能」とタイトルで書いているものです。いかに翻訳が難しいかを諄々と説きだから多少の間違いがあっても多めに見て下されというテーマなのですがその中の一つの例が面白い。ある短編小説の話で大戦中あるイギリス女性がドイツのスパイではないかと噂されている男性に恋をした。注意深く観察したが彼は完璧なキングス・イングリッシュをしゃべり、振る舞いもイギリス紳士そのものなので噂は間違いだと思う。やがて彼も彼女に恋をした。とある晩二人で公園を散歩している時彼が「月が出ていますね。<彼>はなんて美しいのだろう」といってしまった。この瞬間彼女は彼がイギリス人ではないと分かり彼も気づかれたと悟った。森羅万象に「性」があるドイツ語では「月」は男性名詞、英語では「it」というべきところ心を許してしまった彼は「he」といってしまったというのです。この短編小説の最大の見せ場なのに翻訳不能とは!