日曜日に観たい この1本
ホールドオーバーズ
1970年の冬、ボストン近郊にある全寮制のバートン校。クリスマス休暇を前に、生徒たちはみな浮足立っている。
ハナム先生(ポール・ジアマッティ)は、家に帰れない生徒たちの「子守役」を校長から命じられ、休暇中も学校に残ることに。ハナム先生は生真面目で融通が利かず、生徒からも教師仲間からも嫌われている。親が多額の寄付をしている成績の悪い生徒を正直に評価したことで、校長の不興を買ったのだ。学校への居残りは、いわば校長からの「罰」でもある。
ハナム先生の四角四面な態度は、かなり意地悪にも映る。これなら生徒に嫌われても仕方がない。担当する古代史の授業で、テストの答案を返し、成績の悪い生徒たちに嫌味を言う。休暇中なのに、居残った生徒たちに、いつものように勉強させようとする。
最初は数人いた居残り組の生徒たちもいなくなり、最後に一人残されたのはアンガス・タリー(ドミニク・セッサ)だった。アンガスはクリスマス休暇で家に帰ることを心待ちにしていたが、再婚したばかりの母親から新しい夫と旅行に出るから、寮にいてくれと言われてしまう。学校の中でアンガスは反抗的で、しょっちゅう同級生とケンカをしている。それは、彼の孤独の裏返しのようにも見える。だが、アンガスは成績は良い。勉強を頑張っていることも、彼なりの理由があるのだろう。
食事を用意してくれるのは寮の料理長メアリー・ラム(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)。メアリーは一人息子のカーティスをベトナム戦争で亡くしたばかり。息子と最後に過ごした学校で年を越そうとしている。この学校の生徒は、金持ちの子弟が多い。そんな中、黒人である自分の息子は戦争に行き、死んでしまった。理不尽な思いが彼女の中にはあるだろう。彼女は寂しさを表にあらわさないが、傍らに置かれたウイスキーの瓶がやるせなさを表現しているようにも見える。
学校には、もう一人、用務員の黒人男性も残っている。
年末年始は一年で一番、家族と過ごしたい季節。雪に閉ざされ、人気のなくなった学校の中で過ごす3人は、いつもよりよけいに孤独を感じているかもしれない。
アンガスがクリスマスの日にボストンに行きたいと言い出したことで、物語はロードムービーのようになっていく。この小さな旅の中で、それぞれの心に秘めた葛藤や、人としての優しさが表に出て、それはある種の絆(きずな)のようになっていく。人間っていいな、と感じさせる優しい物語だ。じわじわと感動が胸に広がっていく。
名優ポール・ジアマッティや今作でアカデミー賞助演女優賞を獲得したダヴァイン・ジョイ・ランドルフの演技が素晴らしかったことはもちろん、アンガスを演じたドミニク・セッサが映画初出演というのは信じられない思いがする。
【戸田 照朗】
監督=アレクサンダー・ペイン/出演=ポール・ジアマッティ、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ、ドミニク・セッサ、キャリー・プレストン、ブレイディ・ヘプナー、イアン・ドリー、ジム・カプラン、ジリアン・ヴィグマン、テイト・ドノヴァン、2023年、アメリカ
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『ホールドオーバーズ』、ブルーレイ+DVD5280円(税込)、発売元=NBCユニバーサル・エンターテイメント

『ホールドオーバーズ』©2023 MIRAMAX DISTRIBUTION SERVICES, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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