本よみ松よみ堂
真梨幸子著『おひとり様作家、 いよいよ猫を飼う。』
極貧生活から売れっ子作家へ。50歳からの猫との生活
タイトルに惹かれて読んだ。
「おひとり様」、「猫を飼う」。いずれも私の今の状況と同じで、親近感を感じた。本当は「おひとり様作家」が猫を「いよいよ」飼うことになった思いについて書いてほしかったが、そこはあまり深掘りされていなかった。
著者はイヤミスの作家として知られる真梨幸子さん。イヤミスとは「後味が悪くてイヤーな気分になるミステリー」である。ミステリーはあまり読まない。なので、真梨さんの作品は読んだことがないが、「殺人鬼フジコの衝動」という作品には耳覚えがあった。この作品がブレイクのきっかけとなったらしい。
2009年から2016年までのブログとエッセイが収められている。デビューしたものの小説が売れず、バイトや派遣で糊口(ここう)をしのぎ、小説家を辞めようかと思っていたころのブログ「生存確認(地獄編)」から始まる。4年前にクーラーが壊れ、以来、毎年冷房なしの夏を迎える著者は自宅で倒れる。一人暮らしで誰にも発見されず、腐乱死体で発見されるのでは、と不安になる。ブログを更新するのも、知人・友人に生存確認をしてもらうため。
この時期に書いたエッセイを集めた「蜘蛛の糸を見上げながら」に続くブログ「生存確認(脱地獄編)」では、「殺人鬼フジコの衝動」の文庫化をきっかけに、人気に火がついて、仕事が増え、生活が安定していく様子が描かれている。
フィンガー5に夢中になり、ドリフターズが苦手だったという。読んでいると、私の幼いころの記憶と重なる。著者は1964年生まれ。私は65年の早生まれだ。NHK朝の連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」は私も見ていたが、いろいろと思うところがあった。キカイダーやデビルマンの悲劇的なヒーロー像にしてもしかり。
小説が売れ始めたころのエッセイを集めた「蜘蛛の糸をよじのぼりながら」を挟んで、最後は「そして、いよいよ猫を飼う」というブログになる。
著者はもともと犬にシンパシーを感じていて、独身で迎えた50歳の頃に犬を飼おうかと思っていたところ、ふらりと立ち寄ったペットショップで、どう見ても他の子猫たちにいじめられているブリティッシュショートヘアの雌の子猫と出会い、「お金を払って保護」をした。子猫にマリモと名付け、著者はその可愛らしさにメロメロになってしまう。成長するにつれて、ますます可愛らしさ、愛おしさが増してくる。
私が本格的に猫を飼うようになったのは松戸に来てから。実家では猫を飼っていたが、関東に来て、一人暮らしをするようになってからは我慢していた。度々猫の夢を見るようになり、もう限界だと思って、松戸に引っ越した時に猫を飼えるアパートを探した。読者投稿で里親を探していた三毛猫を迎えた時、もうこれで失業はできないなと思った。
著者の真梨幸子さんもマリモを飢えさせないために、書き続けなければ、と思っていると思う。エッセイとブログの中でも、先細っていく出版界への不安もつづられていた。新聞の状況も同じ。就職するころには想像できなかったことだが、好きな仕事なので、悔いはない。【奥森 広治】

幻冬舎文庫 690円(税別)