本よみ松よみ堂
清水晴木著『天国映画館』
故人の人生を上映する天国映画館。人生に駄作はない
主人公の小野田明が目を覚ました場所は天国だった。ただ、生前の記憶がほとんどなく、自分がどんな人生を歩み、なぜ21歳という若さで死んだのかも分からない。
小野田は天国映画館の支配人・秋山に誘われ、スタッフとして働くことになる。スタッフとしていろんな人の人生に触れることで、記憶がよみがえるかもしれないというのだ。
天国映画館では、故人の人生が映画として上映される。秋山と小野田は故人と打ち合わせをして、公開規模を決める。多くの人に観てほしいと望む場合もあれば、一人で観ることを望むこともある。規模が大きい場合は、宣伝もする。観客は天国の住人たち。人生の映画を観た故人は、生まれかわりを迎えるか、別の場所へと旅立っていく。そして、人生のフィルムがいつ届くかは人それぞれで、秋山にも分からない。天国に来て間もなくの人もいれば、何年も天国にいる人もいる。
小野田には、ロベルト、明菜、大和という3人の友人ができる。ロベルトはイタリア人で柏にあるイタリアンの店で働いていた。著者が千葉県出身のせいか、この作品には千葉県の地名が出てくる。明菜は実家がお寺という女性で、天国という概念からは縁遠い環境にいた。大和は10歳の元気な少年で、天国の住人の人気者だ。3人は天国映画館の常連だった。どういうわけか、天国の夕方は長く、丘の上で沈みゆく夕日を眺めながら友人や仲間と語り合うというのが天国の住人のお気に入りの過ごし方になっていた。天国には喫茶店もある。この店では、昼間はお茶を飲み、夜はお酒を飲むこともできる。
5話からなり、それぞれに「ビッグ・フィッシュ」「海がきこえる」「わが母の記」「リトル・ダンサー」「ニユー・シネマ・パラダイス」というタイトルがついている。みな、実際にある映画のタイトルだ。1話ずつ、1人の故人の人生の映画が上映される。この小説は、映画愛にあふれていて、映画に駄作というものはなく、どんな人生にも必ずクライマックスがあり、だれかの心には届く場面があるという。特に映画愛そのもののような作品「ニユー・シネマ・パラダイス」は重要な位置を占めている。
そして、小野田の人生の映画が上映される時が来る。謎が解け、思わぬ展開を見せるラストは、見事だと思った。
本当に、こんな死後の世界があったらいいと思う。大切な人を失った人にとっては、救いになる本だと思った。【奥森 広治】