日曜日に観たい この1本
ディア・ファミリー

 「それで? どうするの? 次は」
 家族が壁にぶち当たるたびに、この作品の中で何度も出てくるこのセリフ。
 愛知県で町工場を経営する坪井宣政(大泉洋)は先天的な心臓疾患のため、あと10年しか生きられないと医師に宣告された娘・佳美(福本莉子)を救うために、日本国内はもとよりアメリカにまで出向き、娘の手術をしてくれる病院を探すが、受け入れてくれるところはどこにもなかった。絶望の中で思いついたのは、自分で人工心臓を作ること。医療知識のない宣政は妻の陽子(菅野美穂)とともに心臓について学び、専門の研究所の協力を仰ぐが、命のリミットをかかえた娘を持つ坪井夫妻とは切実さが違う。医学界の「常識」に阻まれ、何度も壁にぶち当たる。
 佳美には姉の奈美(川栄李奈)と妹の寿美(新井美羽)がいて、三姉妹は仲がいい。
 「私の命はもう大丈夫だから、その知識を苦しんでいる人のために使って」
 「その時」が迫る中で、佳美が口にした言葉。
 人工心臓の研究はやがて心臓の働きを補助するバルーンカテーテルの開発として実を結ぶ。しかし、バルーンカテーテルの開発は佳美の命を救うことには直結しない、という葛藤と悲しみが、家族にはある。
 この作品は実話をもとにつくられた。当時のカテーテルは輸入品で日本人の体に合わず、度々医療事故を起こしていたという。宣政が作ったカテーテルは国内外の17万人の命を救い、今も救い続けている。宣政が経営する町工場はビニール製品を作っていた。その知識が人工心臓の開発に生かされ、会社は医療機器メーカーとなっていく。
 舞台となる1970年代の日本が丁寧に描かれている。私も子どもの頃に入院していたが、病院の大部屋はあんな感じだったと思う。遊ぶのも、同じ病棟の子どもたちだった。その中の一人がいつの間にか、いなくなる。
 「その知識を苦しんでいる人のために使って」という佳美の優しい言葉は、そんな経験の中から生まれたのだと思う。
【戸田 照朗】
 原作=清武英利「アトムの心臓『ディア・ファミリー』23年間の記録」(文春文庫)/監督=月川翔/脚本=林民夫/出演=大泉洋、菅野美穂、福本莉子、新井美羽、上杉柊平、徳永えり、満島真之介、戸田菜穂、川栄李奈、有村架純、松村北斗、光石研/2024年、日本
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 「ディア・ファミリー」DVD通常版、税込4400円、発売元=株式会社WOWOW、販売元=東宝株式会社

©2024「ディア・ファミリー」製作委員会

©2024「ディア・ファミリー」製作委員会

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