web松戸よみうり / 日曜日に観たいこの一本 / 第901号（2024年9月22日）

日曜日に観たいこの１本
カラオケ行こ！

by matsuyomi · 2024年9月22日

　和山やま原作の同名の漫画が原作。
　全国合唱コンクール大阪府予選の後、ホールの階段で合唱部部長の岡聡実（齋藤潤）はヤクザの成田狂児（綾野剛）に突然カラオケに誘われ、歌のレッスンを頼まれる。
　歌好きの組長の誕生会のカラオケ大会でビリになった組員は、組長に入れ墨を彫られるという。組長は絵心がなく、にわか覚えの入れ墨は素人同然。失神するほど痛い。合唱コンクールで聡実の天使のような歌声（ボーイソプラノ）を偶然耳にした狂児は藁（わら）にも縋（すが）る思いで聡実にレッスンを懇願するのだった。いやいやながらレッスンを引き受けた聡実だったが、カラオケ店で会ううちに少しずつ二人の距離は縮まっていく。
　聡実の中学の合唱部は優秀で、昨年は全国大会出場を果たしていたが、顧問が産休に入っている今年は３位で全国大会出場はならなかった。次の合唱祭が中学校での最後の合唱になる。しかし、思春期の聡実には悩みがあった。変声期を迎え、合唱祭では美しく高い声が出るかわからない。
　聡実が狂児に会っていることは、両親も先生も知らない。聡実自身も気がついていないかもしれないが、誰も知らない自分だけの世界を持つことは、大人への階段の一つでもある。
　合唱部の他に、聡実には学校の中にもう一つの居場所がある。合唱部の練習に身が入らない聡実は「映画を観る部」という廃部寸前の部の幽霊部員として、白黒の名画をＶＨＳの古いビデオで、たった１人の部員である同級生の栗山（井澤徹）と観ている。映画を観ながらボソボソとつぶやく独り言のような感想は、この時の聡実の心境でもある。
　そんな聡実を許せないのが後輩の和田（後聖人）。中学生の１年違いというのは差が大きい。少しずつ世界を広げながら遠くに行こうとしている聡実を部長として、同じソプラノとして尊敬するあまり、和田は聡実が許せないのだ。そんな和田をちょっと大人な副部長の中川（八木美樹）をはじめ女子部員たちが見ている。中学生の男子と女子というのも成長の速度が違う。この微妙な中学生の表現がうまいと思う。
　中学生の少年とヤクザという微妙なバランスの上に立つこの物語は、コメディというよりもファンタジーのようだ。「ミナミギンザ」という狂児が出入りしている古い飲み屋街は失われゆく昭和の風景そのもの。狂児という存在も幻のように感じる。【戸田　照朗】
　原作＝和山やま『カラオケ行こ！』（ビームコミックス／ＫＡＤＯＫＡＷＡ刊）／監督＝山下敦弘／脚本＝野木亜紀子／出演＝綾野剛、齋藤潤、芳根京子、橋本じゅん、やべきょうすけ、吉永秀平、チャンス大城、ＲＥＤＲＩＣＥ（湘南乃風）、八木美樹、後聖人、井澤徹、岡部ひろき、米村亮太朗、坂井真紀、宮崎吐夢、ヒコロヒー、加藤雅也（友情出演）、北村一輝／２０２４年、日本
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　「カラオケ行こ！」ＤＶＤ、ブルーレイ発売中、ブルーレイ豪華版（特典ＤＶＤ付）８５８０円（税込）、発売・販売元＝ＫＡＤＯＫＡＷＡ