日曜日に観たい この1本
猫と、とうさん
アメリカ社会では、猫を飼う男性は変人だと思われるという。犬を飼っているのが普通で、猫が好きだとはなかなか人に言うことができない。
ニューヨークで路上生活をしているデヴィッドは、ずぶぬれで死にそうになっていた子猫を拾い、懐で温めた。子猫が奇跡的に命を取り留めたことから、ラッキーという名前をつけた。絶望の中で生きるデヴィッドにとってラッキーは唯一の生きる希望になってゆく。
デヴィッドは住む場所を見つけ、路上生活を脱出しようともがいている。支援者の男性によれば、ホームレスで猫を飼っている人は自分のことよりも猫を優先するという。
このドキュメンタリー映画には猫を愛する9人の男たちが登場するが、その合間にデヴィッドの物語が2020年1月から時系列で挟み込まれていく。コロナ禍のさなかだ。
消防士のジョーダンは仲間とともに消防署で猫を飼っている。現場に出ればどんな危険が待っているかわからない消防士たちは、猫に癒されている。
トラックの運転手はペットを同乗させる人が多いという。犬を同乗させる人が多いが、この男性は猫を同乗させている。
消防士やトラックの運転手など、いかにもマッチョなイメージのある職業の男性を登場させたのには、制作者の意図が含まれているように感じる。
猫と映った動画を公開して俳優としての仕事を広げたネイサンなど、猫を飼っている男性なんて珍しくもない日本では当たり前のように映る光景も、アメリカではインパクトがあることなのかもしれない。
野良猫をつかまえて不妊去勢手術を施しているボランティアの男性も登場する。これも、日本ではそんなに珍しいことではない。気になったのは、アメリカでは野良猫が相変わらず多そうだということ。日本で猫の殺処分が今よりもずっと多かった頃、正確には覚えていないがアメリカの数字を調べてみたら日本よりもずっと多くてびっくりした。欧米は動物愛護が進んでいるイメージがあるのに意外だった。
やはり最も心に残ったのは、最初に書いたデヴィッドの話だ。彼はラッキーを可愛い息子と呼ぶ。対等な命として向き合っている。【戸田 照朗】
監督=マイ・ホン/出演=ネイサン・ケーン、ジェフ・ジャドキンス、デヴィッド・ジョバンニほか/2022年、アメリカ
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「猫と、とうさん」、発売元・販売元=株式会社ファインフィルムズ