日曜日に観たい この1本
鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎

 「ゲゲゲの鬼太郎」の原作者、水木しげるの生誕100年を記念して製作された作品。鬼太郎が生まれる前の、鬼太郎の父(目玉おやじ)と水木という男の物語。原作の漫画にはないエピソードだが、そこには原作者、水木しげるの思いが反映されている。
 廃墟となっているかつての哭倉村(なぐらむら)に足を踏み入れた鬼太郎、目玉おやじ、ねこ娘の3人。目玉おやじは、70年前にこの村で起こった出来事を想い出していた。
 昭和31年、龍賀一族の当主、時貞が亡くなった。龍賀製薬は日清、日露戦争で名を知らしめ、太平洋戦争で大きく業績を伸ばした。血液銀行に勤める水木は、新当主にとりいるため、龍賀一族が支配する哭倉村に向かった。龍賀一族の力の源泉はMと呼ばれる謎の血液製剤。血液銀行の幹部には、兵士に使われた血液製剤Mを、今度は企業戦士に使おうという思惑があった。Mの謎を探るという目的も水木には科せられている。同じころ、鬼太郎の父となる男が、行方不明になっている妻を探すため、哭倉村に入った。男は幽霊族の生き残りで、哭倉村で妻の気配がしたと仲間から聞いていた。
 めったに人が立ち入らないような山の中にある村に建つ龍賀一族の豪邸。一族を集めた座敷では、時貞の遺言が披露され、跡継ぎをめぐる醜い争いが起きていく。そして、連続殺人事件が起こる。だが、一族が支配する村には警察も入ってこない。鬼太郎の父と水木は、この一族に隠された、さらにおぞましい事実を知ることになる。
 まだ戦争の記憶が色濃く残る日本の田舎の旧家で起こる連続殺人事件は、横溝正史の「犬神家の一族」を思い起こさせる。
 原作者と同じ水木という名を持つ登場人物には、水木しげるさんの壮絶な戦争体験が反映されている。水木さんは、「総員玉砕せよ!」という作品をはじめ、自身の戦争体験をもとにした作品を多く残している。
 物語の中の水木という男は出世したいという野心を抱いている。戦場では一兵卒として上官から使い捨てにされた。生き残って帰ってきた日本では二度と使い捨てにはされたくない。そのために、のしやがってやる。そんな思いがある。
 戦争は終わった。でも、戦後の日本もどこも変わっていない。権力者が弱い者を使い捨てにしている。そんな、水木さんの怒りと、やるせない想いが、この作品に生きているように感じる。【戸田 照朗】
 監督=古賀豪/脚本=吉野弘幸/音楽/川井憲次/声の出演=関俊彦、木内秀信、種﨑敦美、小林由美子、白鳥哲、飛田展男、中井和哉、沢海陽子、山路和弘、皆口裕子、釘宮理恵、石田彰、古川登志夫、庄司宇芽香、松風雅也、沢城みゆき、野沢雅子/2023年、日本
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 「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」豪華版ブルーレイ、2024年11月17日発売、16500円(税込)、発売元=株式会社ハピネットファントム・スタジオ、販売元=株式会社ハピネット・メディアマーケティング

©映画「鬼太郎誕生ゲゲゲの謎」製作委員会

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