web松戸よみうり / 日曜日に観たいこの一本 / 第894号（2024年2月25日）

日曜日に観たいこの１本
水は海に向かって流れる

by matsuyomi · 2024年2月25日

　田島列島の同名漫画の映画化。
　通学のため、叔父・茂道の家に居候することになった高校生の直達（なおたつ）。だが、どしゃぶりの雨の中、最寄りの駅に迎えにきたのは見知らぬ大人の女性、榊さんだった。案内されたのは古い大きな家で、そこはシェアハウスだった。
　２６歳のＯＬ・榊さんは、いつも不機嫌そうにしているが、料理が得意なのか、気まぐれに美味しいご飯を振る舞ってくれる。
　シェアハウスには脱サラしたマンガ家の叔父・茂道（通称ニゲミチ）、女装の占い師・泉谷、文化人類学者の大学教授・成瀬が同居している。
　直達は通学の途中で保護した子猫をきっかけに、同級生の楓と仲良くなる。楓は偶然にもシェアハウスの泉谷の妹だった。
　実は、直達と榊さんには過去に思いも寄らぬ因縁があった。その出来事は、１０年前、榊さんが高校生の時に起きた。榊さんのお父さんと大学の同級生だった成瀬はその出来事を知っていて、１６歳から時が止まったようになっている榊さんのことを心配している。
　同じ屋根の下で暮らす美しい大人の女性。そして、自分の家族が関係したある出来事。直達は榊さんに共感、あるいは好意を寄せるようになる。一方で、楓は直達に好意を寄せるが、直達はなかなか気づいてくれない。
　榊さんが傷ついたのは、ちょうど直達と同じ年の頃。ちょっと深読みすると、これもまた因縁と言えるかもしれない。当時、まだ小さな子どもで、何も分からなかった直達と、高校生だった榊さん。大人の身勝手に振り回された榊さんには、ずっと胸の内に「怒り」があった。
　こう書くと、なにか深刻な映画のように誤解されそうだが、実はコメディの要素もあり、笑える場面もある。そして、なにより映画全体を包む雰囲気がいい。
　広瀬すずを初めて観た２０１５年公開の映画「海街ｄｉａｒｙ」（是枝裕和監督）を思い出していた。鎌倉に住む四姉妹の話で、広瀬すずは、訳あって３人の姉とは違う田舎の街に住んでいた一番下の妹の役だった。その時、彼女はちょうど高校生ぐらいだったと思う。【戸田　照朗】
　監督＝前田哲／原作＝田島列島「水は海に向かって流れる」（講談社「少年マガジンＫＣＤＸ」刊）／脚本＝大島里美／出演＝広瀬すず、大西利空、高良健吾、戸塚純貴、當真あみ、勝村政信、北村有起哉、坂井真紀、生瀬勝久／２０２３年、日本
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