日曜日に観たい この1本
BLUE GIANT

 2013年に石塚真一が「ビッグコミック」(小学館)で連載を開始し、コミックスのシリーズ累計部数が1100万部を超える大人気漫画「BLUE GIANT」を映画化。
 物語は世界一のジャズプレイヤーを目指す宮本大(みやもとだい・テナーサックス奏者)が高校を卒業後、仙台から上京してくるところから始まる。
 大は高校の同級生で大学に入学したばかりの玉田俊二(たまだしゅんじ)のアパートに転がり込む。そしてライブハウスで同じ年とは思えないほどの演奏を見せるピアニスト・沢辺雪祈(さわべゆきのり)と出会い、バンドを組まないかと誘う。
 最初は乗り気ではなかった雪祈だったが、大の魂を揺さぶるような圧倒的な演奏に胸を打たれ、二人はバンドを組むことにする。
 大はサックスを始めてから3年と少し。キャリアは短いが、寒風吹きすさぶ北国の河原で練習してきた指には、その演習量を示すように大きなタコができていた。かたや、雪祈は母親の影響で4歳からピアノを習っているという、ある意味、音楽のエリート。ドラムは、大によってジャズの魅力に目覚めた玉田が担当することに。玉田は全くの初心者。子どもの通う音楽教室で基礎を学ぶところから始める。
 キャリアもジャズへの思いも違う3人。それぞれの成長の物語が胸を熱くする。
 冒頭のシーン。仙台駅前のバス停で大を見送る兄と妹。妹はすねたようにうつむいている。大はどのようにしてジャズプレイヤーを目指すようになったのか。原作の漫画は読んだことはないが、そのあたりもきっと詳しく描かれているのだろう。この作品では、そんな背景を匂わせる表現が随所に出てくる。
 一見優雅に見える雪祈は、実は苦学生で、大学に通いながらバイトを掛け持ちしている。最初は初心者の玉田を冷ややかに見ていた雪祈も、しだいに玉田の頑張りを認めるようになる。
 3人の演奏はファンの目に留まるようになり、雪祈の子どもの頃からの夢だった、日本最高のジャズクラブ「So Blue」で演奏するという目標を立てる。しかも十代のうちに。無謀とも思える挑戦だが、3人に無償で練習場所を提供してくれるジャズバーのママや、バンドの成長を見守る市井の人たちに支えられながら3人は成長してゆく。
 3人の演奏シーンで、ここぞという場面では、これまで歩んできた人生の一コマが走馬灯のように挟み込まれる。まるで、ジャズの演奏は人生そのものだ、というように。
 初の映像化に際し「劇場の最大の音量、最高の音質で、本物のジャズを届けたい」という想いから、様々な選択肢がある中、アニメーション映画として制作された、という。
 それだけに、全編の4分の1を占めるライブシーンは圧巻で、映画音楽を担当したのは、グラミー賞受賞歴を持つ世界的ピアニストの上原ひろみ。主人公たちが結成するトリオ〝JASS〟のオリジナル楽曲を書き下ろし、劇中曲含めた作品全体の音楽を制作した。また、サックスは、国内外のトップアーティストが集まるオーディションを経て選ばれた馬場智章、ピアノは、音楽の上原ひろみ自身が担当し、ドラムの演奏は石若駿が担当。いずれも一流のアーティストだ。
 5月8日には、劇中の「So Blue」のモデルとなった東京・青山にある世界屈指のジャズクラブ「Blue Note Tokyo」で特別上映された。
 音がない原作漫画ではどのようにライブシーンを表現したのだろう。音楽シーンの圧倒的表現力などで、〝音が聞こえてくる漫画〟とも評されている、という。脚本は、連載開始前からの担当編集者で、現在はストーリー・ディレクターとして作品に名を連ねるNUMBER 8が担当している。
【戸田 照朗】
 原作=石塚真一「BLUE GIANT」(小学館「ビッグコミック」連載)/監督=立川譲/音楽=上原ひろみ/アニメーション制作=NUT/脚本=NUMBER 8/声の出演=山田裕貴、間宮祥太朗、岡山天音/演奏=馬場智章(サックス)、上原ひろみ(ピアノ)、石若駿(ドラム)
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 「BLUE GIANT」、ブルーレイスペシャル・エディション(ブルーレイ2枚組+特典CD・初回生産限定版)税込1万2100円、DVDスタンダード・エディション税込5500円、発売元=東宝・小学館、販売元=東宝

©2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 ©2013 石塚真一/小学館

©2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 ©2013 石塚真一/小学館

©2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 ©2013 石塚真一/小学館

©2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 ©2013 石塚真一/小学館

©2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 ©2013 石塚真一/小学館

©2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 ©2013 石塚真一/小学館

©2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 ©2013 石塚真一/小学館

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