日曜日に観たい この1本
すずめの戸締まり

 宮崎の海の見える町で暮らす岩戸鈴芽(いわとすずめ)は、17歳の高校2年生。漁協で働く叔母の環(たまき)と二人で暮らしている。ある朝、自転車で高校に向かう途中で髪の長い青年・宗像草太(むなかたそうた)に出会い、「この辺に廃墟はないか」と尋ねられる。草太は扉を探しているという。気になって草太の後を追った鈴芽は廃墟の中にぽつんとたたずむ扉を発見する。
 草太は開いた扉から吹き出る災いを防ぐために扉を探して閉めて回る「閉じ師」だった。それは、宗像家の家業だという。扉の後ろ戸からはミミズと呼ばれる巨大な赤黒い煙のようなものが出てくる。このミミズが倒れると地震が起きる。その光景が見えるのは、鈴芽と草太だけ。普通の人々には見えない。
 鈴芽はうっかり扉のそばにあった石を手にしてしまった。その石は子猫の姿になって二人のもとに現れ、草太を椅子に変えてしまう。それは鈴芽が幼い頃に使っていた、脚が1本欠けた小さな椅子。逃げる子猫を捕まえようと3本脚の椅子の姿で走り出した草太を、鈴芽は慌てて追いかける。
 逃げ出した子猫を追って、鈴芽と椅子になってしまった草太の旅が始まる。子猫は様々な場所で目撃され、ネット上で有名になり、いつしか、ダイジンと呼ばれるようになる。ダイジンの行く先々で扉が開き、地震が起きそうになる。二人は力を合わせて扉を閉めようとする。宮崎から愛媛、神戸、東京、そして鈴芽の生まれ故郷の東北へ。どこも災害の記憶が残る場所だ。
 愛媛の民宿の娘で鈴芽と同い年の海部千果(あまべちか)や神戸のスナックのママ・二ノ宮ルミなど、旅の途中で偶然出会った人たちが鈴芽を助けてくれる。
 実際に起こった災害を題材にしているだけに、観る人によっては、いろんな思いが交錯するかもしれない。原作・脚本も務める新海誠監督は、それもわきまえて作品に真摯に向き合っていると思う。
 物語は日本の神話が下敷きになっている。扉のそばで鈴芽が手にしてしまった石は要石(かなめいし)だった。地震を鎮める石で、千葉県では香取市の香取神宮にある。また、鈴芽が暮らしていた宮崎には天岩戸(あまのいわと)伝説がある。鈴芽の苗字は岩戸だ。
 記憶、忘れること、忘れてはいけないこと、も物語の大きな要素のように感じる。草太が姿を変えられた3本脚の小さな椅子は、工作が得意だった鈴芽の母・椿芽(つばめ)が作ってくれたものだ。形見でもあるこの椅子をずっと大切にしてきただろうか、という思いが鈴芽にはある。
 新海誠監督の作品では言わずもがなだが、風景の描写が実に美しく、そして細かなところまで本当によく描かれている。
【戸田 照朗】
 原作・脚本・監督=新海誠/声の出演=原菜乃華、松村北斗、深津絵里、染谷将太、伊藤沙莉、花瀬琴音、花澤香菜、神木隆之介、松本白鸚/2022年、日本
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 「すずめの戸締まり」、ブルーレイコレクターズ・エディション(5枚組)税込14300円、ブルーレイスタンダード・エディション税込5500円、DVDスタンダード・エディション税込4400円、発売元=STORY inc./コミックス・ウェーブ・フィルム、販売元=東宝

©2022「すずめの戸締まり」製作委員会

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