日曜日に観たい この1本
エンドロールのつづき
9歳のサマイはインドの田舎町で、学校に通いながら父のチャイ店を手伝っている。厳格な父は映画を低劣なものだと思っているが、ある日特別に家族で街に映画を観に行くことに。人で溢れ返ったギャラクシー座で、席に着くと、目に飛び込んだのは後方からスクリーンへと伸びる一筋の光…。そこにはサマイが初めて見る世界が広がっていた。映画にすっかり魅了されたサマイは、再びギャラクシー座に忍び込むが、チケット代が払えずにつまみ出されてしまう。それを見た映写技師のファザルがある提案をする。料理上手なサマイの母が作る弁当と引換えに、映写室から映画を観せてくれるというのだ。サマイは映写窓から観る色とりどりの映画の数々に圧倒され、いつしか「映画を作りたい」という夢を抱きはじめる(公式ホームページより)。
監督・脚本を担当したパン・ナリンの自伝的作品。パン・ナリン監督は、BBCやディスカバリーチャンネルのドキュメンタリー作品を手掛け、インドのグジャラート州出身者として初の米アカデミー会員に選ばれた。オーディションで3000人の中から選ばれた主演のバヴィン・ラバリは、初めての演技とは思えないほど自然な演技。父親役のディペン・ラヴァルやファザル役のバヴェーシュ・シュリマリ、そしてサマイの仲間たちを演じた子役たちも全員グジャラート州出身であることにこだわり、監督の幼少期の思い出が詰まった故郷の、独特な雰囲気や風情を見事に再現している。
サマイが興味を持ったのは、映画という光の芸術だ。サマイは思わず映写機の光に手をかざしてしまい、映画館をつまみ出される。つまみ出されたことで、偶然にも映写技師のファザルと知り合うことになる。映写室の窓から映画を見ているシーンは、1988年のイタリア映画「ニュー・シネマ・パラダイス」を思わせる。
映画の冒頭のシーンで、サマイは鉄道のレールの上に釘を並べ、列車に轢かせ、矢尻を作る。サマイは、遊び道具でもなんでも工夫して手作りしてしまうのだ。サマイは、映画の仕組みを理解し、仲間たちと映写機を手作りする。
2010年という設定。ちょうど、映画がフィルムからデジタルに変わる頃。古き良き映画館の風景も変わってゆく。だが、ノスタルジックな感傷に浸るのではなく、サマイの目は、役目を終えた映写機やフィルムの〝その後〟に注がれる。
サマイの父親は「バラモン」という自身の出自にプライドを持ち、こだわっている。しかし、目の前にあるのは、駅に停る列車の乗客にチャイ(お茶)を売る貧しい生活。「バラモン」はインドの階級社会では最上位。むしろ、「バラモン」というプライドだけが、彼を支えているのかもしれない。
サマイにとって「映画を作りたい」という希望は、そんな狭い階級社会や小さな田舎町から解放してくれる一筋の光なのかもしれない。父親を超えていこうとする、少年の成長の物語でもある。
そんなサマイを温かく見守る母親。愛情豊かなその手料理が、本当に美味しそうに描かれている。【戸田 照朗】
監督・脚本=パン・ナリン/出演=バヴィン・ラバリ、ディペン・ラヴァル、リチャー・ミーナー、バヴェーシュ・シュリマリ/2021年、インド・フランス
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『エンドロールのつづき』好評発売中&デジタル配信中、ブルーレイ5280円(税込)、発売・販売元=松竹 ※2023年8月27日時点の情報です。