松戸市の障がい者雇用
社会福祉法人ウィンクルの取り組み

 障害者基本法では基本理念として、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現がうたわれている。このため、障害者雇用促進法(障害者の雇用の促進等に関する法律)においては、障害者は、経済社会を構成する労働者の一員として、職業生活においてその能力を発揮する機会を与えられるものとされ、障害者雇用施策は、こうした個人の尊厳の理念に立脚した障害者の社会的自立、職業を通じた自立を実現するという基本的理念の下で進められている。
 障害者雇用促進法では、すべての事業主は一定の割合(法定雇用率)以上の障害者を雇用しなければならないとされており、民間企業の法定雇用率は2・3%で、常用労働者数43・5人以上の企業に障害者雇用の義務がある。
 法定雇用率の算定の対象となるのは、身体障害者、知的障害者、精神障害者で「手帳」(それぞれ、身体障害者手帳、療養手帳、精神障害者保健福祉手帳)を持っている人。精神障害者とその他の心身機能の障害があり、手帳を持っていない人は、雇用率の算定対象とはならないが、同法が定める職業リハビリテーションの推進や差別禁止と合理的配慮の提供義務の対象になる。
 法定雇用率は現在、民間企業2・3%、国、地方公共団体等2・6%、都道府県等の教育委員会2・5%となっているが、5年に1度、社会の変化を反映するため見直され、今後も上昇していくと見られている。
 企業が雇用すべき障害者の人数は、常用労働者の人数(短時間労働者は0・5人分として計算)×法定雇用率で求められる(小数点以下は切り捨て)。従業員を43・5人以上雇用している事業主は、障害者を1人以上雇用しなければならないことになる。
 雇用する障害者の人数の数え方は障害の重さと働き方によって変わり、例えば、重度身体障害者と重度知的障害者は1人で2人分として計算される。
 常時雇用している労働者数が100人を超える事業主で法定雇用率を達成していない場合、不足している障害者1人あたり毎月5万円の障害者雇用納付金が徴収される。
 また、ハローワークより「障害者の雇入れに関する計画」の提出が求められ、それでも改善を行わない企業に対しては、企業名の公表を前提とした労働局・厚生労働省からの行政指導が入ることがある。行政指導が入っても雇用状況の改善を行わない場合は、企業名が公表される。
 障害者を雇用したことがない企業が、まず障害者と「つながる方法」としては、企業の仕事の一部を障害者施設に委託したり、企業内の体験実習や特別支援学校の実習の受入れなどが考えられる。また、障害者施設で製作している物品等の購入や寄付で支援していくという方法もある。
 障害者施設の全国の月額平均工賃(障害者に支払われている金額。障害者施設の事業収入から事業経費を控除した額)は、1万5000円。障害者が自立した生活を行えるようにするためには、工賃を上げることが必須だ。

地域社会でありのままに生き生きと
 市内の障害者就労施設は88事業所がある。
 社会福祉法人ウィンクルは、就労継続支援B型「あるば」と地域活動支援センターⅢ型「ほくと」を運営している。
 両事業所は、知的、身体、精神に障がいのある人たちの就労の場で、利用者が地域の中で、ありのままに生き生きと生活し、作業を通じて社会性を身につけてもらうことを目標にしている。
 「あるば」は、利用者が一般就労できるよう、各方面と協力して取り組んでいる。そのため、社会性が自然に身につくように、施設外での支援の機会をできるだけ多く設けるようにしているという。 「あるば」は松戸商工会議所に隣接する「ほくとビル」内にある。事業所のある「ほくとビル」全体を使用して、地域活動支援センター「ほくと」と共同イベントを行い、利用者それぞれが創作的工夫をしてイベントを盛り上げる活動を行っている。
 作業としては、紙製品加工会社等からの受注作業を中心に文房具品や食用嗜好品、日用雑貨品等のセット作業、手芸品の作成作業、手賀沼せっけん工場での袋詰め作業、昭和梱包や川上紙工での施設外作業、チラシや新聞のポスティング作業、病院敷地内の除草作業などを行っている。
 コロナ禍で内職作業の受注が激減する中、施設の利用者の仕事確保と工賃向上を目的に2021年からマーマレードづくりも始まった。材料となる柑橘(かんきつ)類(甘夏、夏みかん、柚子、レモン、鬼ゆず、文旦、伊予柑、はっさく、でこぽんなど)を確保するため、春には庭になりっぱなしの柑橘類などを募集した。
 また、新松戸中央公園フリーマーケットや松戸まつり等、各地、各種のイベントに参加して、手芸品やたこ焼き、讃岐うどん、炊き込みご飯等の販売を行い、社会との交流を深めている。
 「あるば」の定員は50人。令和2年度の利用者は34人。平均工賃月額は1万9673円。
 榎本博次理事長は、「松戸市に夜間中学校をつくる市民の会」の代表でもある。同会が運営する松戸自主夜間中学は40年前に開校し、ボランティアの手によって運営されてきた。生徒となったのは、戦争で義務教育を受けられなかった人、中国残留孤児の帰国者、不登校経験者、外国人、障がい者など。健常者は自主夜間中学で学び、進学や就職など次のステップに進んでいったが、障がい者の人たちは行き場がなく、長く自主夜間中学に居残ることになった。それなら、自分たちで障がい者が働ける場所を作ろうと、20年前に小規模福祉作業所「北斗の家」を立ち上げた。
 当初は任意団体だったが、障害者自立支援法(2006年施行。2013年の改正で障害者総合支援法)ができてからは、法的な裏付けができた。
 「あるば」からは、令和2年度2人、3年度も2人の企業就職者を出した。職員が日頃見ていて、就労できそうな人を選び、面談をして本人に就職の希望を確認し、ハローワークなどと連携して、企業を探し、企業の見学、実習などを経て就労につなげていくという。
 榎本理事長は「利用者は、特別支援学校を卒業してから入ってきます。生まれてから18年間、障がいがあることで差別され、褒められたという経験がない人がほとんど。少ないですけれど、自分の体を使って働いて賃金を得られるという喜びは大きいのではないでしょうか。利用者同士で喜び合いながら働けるという事業所の雰囲気もいいと思います」と話していた。
 問い合わせは、☎047・703・1236(平日11時~17時)。
【戸田 照朗】

下2点ともウィンクルが運営する障害者就労施設で働く人たち(社会福祉法人ウィンクル提供)

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