日曜日に観たい この1本
SHE SAID シー・セッド その名を暴け
ピューリッツァー賞を受賞したニューヨーク・タイムズの調査報道を題材にした作品。報道をきっかけに、「#Me Too運動」が世界中に広がることになった。
調査報道記者のミーガン・トゥーイー(キャリー・マリガン)はドナルド・トランプのセクハラ疑惑を暴いて記事にした。記事が出ると、ミーガンには脅迫電話が入り、証言した女性は酷い嫌がらせを受けた。2016年、トランプはヒラリー・クリントンを破って合衆国大統領に当選した。性被害を訴えても、世の中は変わらない。ミーガンは苦い思いを抱いて、出産のため休職した。
ミーガンの同僚のジョディ・カンター(ゾーイ・カザン)は、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』『恋におちたシェイクスピア』『ロード・オブ・ザ・リング』『英国王のスピーチ』など数々の名作を手掛けた映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ・性的暴行事件を追っていた。
しかし、被害女性の証言を得られず、行き詰ったジョディは産休中のミーガンに助言を求める。職場に復帰したミーガンはジョディとタッグを組んで取材を進めることになる。
取材を進める中で、ワインスタインは過去に何度も記事をもみ消してきたことが判明する。被害にあった女性たちは示談に応じており、証言すれば訴えられるため、声をあげられないままでいた。問題の本質はワインスタインだけではなく、業界の隠蔽構造にあった。
職場と取材現場だけではなく、二人の女性記者の子育ての様子など家庭生活が丹念に描かれている。そのため、同じ女性として、どんな思いで、被害女性を取材しているかが伝わってくる。
ある被害女性は、訪ねてきたミーガンに「25年も待ってたのよ」と話す。この問題は、映画業界だけではなく、メディアも見て見ぬふりをしてきた。まだ若いミーガンに責任があるわけではないが、彼女は一人の記者として、この言葉をどう受け止めただろうか。
映画はこんなシーンで始まる。1992年のアイルランド。海岸を犬と散歩していた少女は偶然映画の撮影現場に出会い、撮影を手伝うようになる。次の瞬間、カットが変わって、彼女が服を持ちながら、泣きながら街を走っている…。夢や希望を打ち砕かれ、一生癒えない心の傷を負った。この少女は、後に記事の重要な証言者となる。
この事件は他人事ではない。日本の芸能界でも大手事務所で長年行われてきた性的暴行を被害者が訴えている。マスコミも長年見て見ぬふりをしてきたという構造は、アメリカの事件と同じだ。
ただ、違うのは、アメリカでは大手メディアが調査報道で告発し、こうして映画にもしているという点だ。劇中に実名で出てくるのである。日本の映画界で、これができるだろうか。アメリカはすごいと改めて思った。【戸田 照朗】
監督=マリア・シュラーダー/製作総指揮=ブラッド・ピット、リラ・ヤコブ、ミーガン・エリソン、スー・ネイグル/脚本=レベッカ・レンキェビチ/原作=ジョディ・カンター、ミーガン・トゥーイー「その名を暴け―#MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い―」/出演=キャリー・マリガン、ゾーイ・カザン、パトリシア・クラークソン、アンドレ・ブラウアー、ジェニファー・イーリー、サマンサ・モートン/2022年、アメリカ
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