チューニング 2023年4月23日
商工会議所の会報誌の仕事で、日下圭介の「『野菊の墓』殺人事件」というミステリー小説を読んだ。日下氏は1940年生まれで、2006年に亡くなっている。この作品は1988年の刊行で、発表当時は48歳だった▼気になったのは、女性の登場人物が年齢に関係なく「~ですわ」という女言葉を使うこと。男性の登場人物は、もれなくタバコを吸っていて、時代を感じる▼88年当時私は大学3年生だった。同級生の女の子は「~ですわ」なんて言葉は使わなかったと思う。95年7月に入社したが、先輩社員が5月の新聞を見せて、「『ガンバリますヮ』はないよな」と言って苦笑いしていた。市内の消防署に3人の女性救急隊員が誕生したという記事に、当時の編集長がつけた見出しだ▼小説のセリフで女言葉を使えば誰の発言かがわかるので、便利ではある。手もとにある最近の小説を見てみると、「~わよ」とか「~ね」といった女言葉は今でも使われている▼「~ですわ」が現代の小説で全く使われていないと断言はできないものの、違和感を持ったのは、それだけ使われなくなった、ということだろう。過渡期にあったと思われる当時は明治初期の「文語」のように、記号的に書き言葉の世界にだけ生き残っていたのかもしれない。