web松戸よみうり / 日曜日に観たいこの一本 / 第884号（2023年4月23日）

日曜日に観たいこの１本
ＰＬＡＮ75

by matsuyomi · 2023年4月23日

　少子高齢化が一層進んだ近い将来の日本。満７５歳から生死の選択権を与える制度「プラン７５」が国会で可決・施行された。
　夫と死別してひとりで慎ましく暮らす角谷ミチ（倍賞千恵子）は７８歳。ある日、高齢を理由にホテルの客室清掃の仕事を突然解雇される。職安に行っても仕事はなく、住む場所をも失いそうになった彼女の選択肢は「プラン７５」以外になくなっていく。
　市役所の「プラン７５」の申請窓口で働くヒロム（磯村勇斗）は、さわやかな笑顔でお年寄りに制度の説明をしてゆく。
　死を選んだお年寄りに「その日」が来る直前までサポートするコールセンタースタッフの瑶子（河合優実）は、お年寄りの気持ちが変わらないように、うまく誘導していくのが仕事だ。制度上は、気が変われば、いつでもキャンセルできるようになっている。
　フィリピンから単身来日した介護職のマリア（ステファニー・アリアン）は幼い娘の手術費用を稼ぐため、より高給の「プラン７５」関連施設に転職。利用者の遺品処理など、最後の作業を行う。
　ヒロムと瑶子という若い日本人は、「プラン７５」という制度の歯車となって、勤勉に真面目に仕事をこなしていく。７５歳で死を選ぶことが日本の未来のために役立つかのように広報されているため、彼らもどこか、感覚がマヒしているのだろう。しかし、ヒロムは偶然、自分の叔父が申請に訪れたことで、瑶子は規則を破って担当しているミチに直接会ってしまったことで、心に揺らぎを感じるようになる。
　ミチが仕事仲間と訪れた健康診断の会場では、「プラン７５」のコマーシャルが流れている。健康で長生きすることが、悪いことのように感じる。
　夜の公園では、貧しい人への炊き出しが行われているが、同じ公園では市役所が「プラン７５」の説明を行っている。ポスターには申請に住民票がいらなくなったことが記されている。
　ニュースでは、申請が６５歳に引き下げられることも示唆される。死の制度はより利用しやすく、より間口を広げつつある。
　この制度を審議した国会議員にも高齢者は多い。しかし、彼らは自分たちは対象外だと考えているのだろう。この制度自体が、格差を助長し、命の選別を行う仕組みになっている。
　映画の冒頭は、老人施設が一人の若者に襲撃されるというショッキングなシーンから始まる。
　早川千絵監督は、「２０００年代半ば以降、日本では自己責任という言葉が幅をきかせるようになり、社会的に弱い立場の人を叩く社会の空気が徐々に広がっていったように思います。そして２０１６年、障害者施設殺傷事件が起こりました。人の命を生産性で語り、社会の役に立たない人間は生きている価値がないとする考え方は、すでに社会に蔓延しており、この事件の犯人特有のものではないと感じました。政治家や著名人による差別的な発言も相次いで問題になっていましたし、人々の不寛容がこのまま加速していけば、『プラン７５』のような制度は生まれ得るのではないかという危機感がありました」と振り返り、「そんな未来は迎えたくないという想いが、この映画を作る原動力となりました」と制作意図を明かしている（ホームページより抜粋）。
　この作品は２０１８年の「十年 Ten Years Japan」というオムニバス映画の同名短編がもとになっている。
　説明的な部分を極力省き、ドキュメンタリーのように淡々と見せていく。それだけに、観る側に解釈が委ねられる部分も多い。
　この作品は、第７５回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品され、カメラドール特別表彰に輝いた。【戸田　照朗】
　脚本・監督＝早川千絵／出演＝倍賞千恵子、磯村勇斗、たかお鷹、河合優実、ステファニー・アリアン、大方斐紗子、串田和美／２０２２年、日本・フランス・フィリピン・カタール
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　「ＰＬＡＮ７５」、ブルーレイ５５００円（税込）、ＤＶＤ４４００円（税込）、４月２６日発売、発売元＝株式会社ハピネットファントム・スタジオ、販売元＝株式会社ハピネット・メディアマーケティング