日曜日に観たい この1本
NOPE/ノープ

 「ゲット・アウト」(2017年)、「アス」(2019年)に続く、ジョーダン・ピール監督の長編映画3作目。ホラーともSFともとれる薄気味悪さの中に、人種差別や階級社会などの社会問題が内在されている。
 今作の「ノープ」にも独特の薄気味悪さがある。そして、何も知らないで(ネタばれなしで)見た方が絶対に面白い、という特徴も共通していて、今回も、ストーリーは、ほんのさわりだけを紹介する。
 ハリウッドで牧場を経営するOJ・ヘイウッドが父と話していると、空から何かがボトボトと落ちてきた。父はその落下物に直撃されて命を落とした。飛行機の部品が落下したことによる事故とされたが、父の頭にはコインが入っていたし、馬の尻には鍵が刺さっていた。
 OJの牧場は普通の牧場と違って、ハリウッドで映画やコマーシャルに出演する馬を調教していた。父の仕事を継いだOJだったが、撮影前のある事故が原因で仕事を失う。
 牧場の近くでは有名な子役だったリッキーが西部劇のテーマパークを経営していた。OJはリッキーに馬を売ることにする。リッキーは馬を使ったあるショーを企画していた。
 OJは父の死以来、牧場の上空の雲の間に見え隠れする未確認飛行物体(UFO)を目撃していた。OJの妹のエメラルドは未確認飛行物体を撮影して一攫千金(いっかくせんきん)を得ようと提案する。
 この作品でも人種やマイノリティへの差別は一つのテーマになっている。映画の冒頭に黒人のジョッキーが馬に乗る映像が出てくる。これは、史上初めて撮られた動画だが、撮影した白人の名は残っていても、写っている黒人ジョッキーの名前はない。この人はOJとエメラルドのひいひいおじいさんで、ヘイウッド家は代々映画産業に携わってきたが、黒人は存在しなかったように扱われている。テーマパークの経営をしているリッキーもマイノリティの東洋人だ。
 しかし、今回の作品で大きなテーマとなっているのは、「見る」「見られる」ことの暴力性と恐さだと思う。映画産業やエンターテイメントがそうだし、「映(ば)える」という言葉が象徴するように、現代人はSNSで「見る」「見られる」ことを意識している。
 OJとエメラルドの意識もUFOの正体の解明に向かうのではなく、UFOを撮影することに固執している。
 リッキーが子役時代に出演していた番組は、出演していたチンパンジーがストレスから陰惨な事件を起こして終了している。チンパンジーはいわば「見せ物」として抑圧されていたわけだが、リッキーはそんな過去があるにもかかわらず、今も「見せ物」を続けているという哀しさがある。
 この作品には過去の映画のオマージュと思われる場面や設定も出てくる。ジョーダン・ピール監督は日本のアニメがかなりお好きなようで、「アキラ」や「エヴァンゲリオン」のオマージュと思われる場面もある。
 【戸田 照朗】
 監督・脚本・製作=ジョーダン・ピール/出演=ダニエル・カルーヤ、キキ・パーマー、スティーヴン・ユアン、ブランドン・ペレア、マイケル・ウィンコット、キース・デビッド/2022年、アメリカ
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 「NOPE/ノープ」、ブルーレイ+DVD税込5280円、4KUltraHD+ブルーレイ税込7260円、発売中、発売・販売元=NBCユニバーサル・エンターテイメント

©2022 UNIVERSAL STUDIOS.ALL RIGHTS RESERVED.

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