日曜日に観たい この1本
コーダ あいのうた
「コーダ」とは、ろう者(あるいは難聴者)の親を持つ、聞こえる子どものこと。高校生のルビーの家族は両親と兄の4人家族。ルビーだけが耳が聞こえる。家族は漁師で、ルビーも学校に行く前、3時に起きて船に乗り、漁を手伝う。ルビーは家族にとって「通訳」として、生活に欠かせない存在となっている。
ルビーは高校で合唱クラブに入った。密かに憧れていたマイルズが合唱を選択したからだ。しかし、みんなの前で歌うのには抵抗があった。長い間ろう者の間で育ったルビーは、学校に入学した当初、発音を笑われたことがあったからだ。
ところが、ルビーの歌声を聴いた顧問の先生は、彼女の才能を見出し、自身の母校でもある音楽大学への進学を強く勧める。マイルズも音楽大学への進学を目指していた。顧問の先生は、コンサートで二人でデュエット曲を歌うように、と言う。そして、音大受験のために、個人レッスンを始めてくれた。
マイルズとの恋の始まり、そして、歌という新しい希望と可能性を見い出したルビーだったが、両親には歌を歌うということがよくわからない。娘の歌声も聴いたことがなく、才能があると言われても信じられない。
ルビーの家族は障がいがあるためか、絆が強く、仲がいい。そんな中で、ルビーは耳が聞こえるがゆえに、疎外感を感じてもいる。両親からすると、歌という新しい世界を見つけて、娘が遠くに行ってしまうような寂しさと不安もある。しかし、兄だけは家族のために夢をあきらめようとする妹に「これでいいのか」という苛立ちを覚えていた。
この作品は「エール!」という2014年のフランス映画のハリウッド版リメイクだ。ストーリーと設定はほぼ同じで、演出も同じ個所が多々あるが、より深みのある作品に昇華している。
両親と兄を演じているのは、本当にろう者の俳優だという。
合唱の練習が本当に楽しそう。顧問の先生は中米からの移民のようで、苦労して音大を出たのか、音楽への情熱がひしひしと伝わってくる。「エール!」では弟だったルビーのきょうだいが兄に改変されているのも成功していると思う。両親とは違う視点でルビーのことを想う存在として機能しているからだ。また家族の職業も牧場経営から漁師に変わったことで、より不安定で、ルビーの必要性が際立つ効果を生み出している。
家族の強い絆と、家族からの旅立ち。家族映画としても、青春映画としても、優れた作品だと思う。
【戸田 照朗】
監督・脚本=シアン・ヘダー/出演=エミリア・ジョーンズ、トロイ・コッツァー、マーリー・マトリン、ダニエル・デュラント、フェルディア・ウォルシュ=ピーロ、エウヘニオ・デルベス/2021年、アメリカ
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「コーダ あいのうた」、ブルーレイコレクターズ・エディション(GAGAオンライン・ストア限定販売)5280円(税込)、ブルーレイ5280円(税込)、DVD4180円(税込)、9月2日発売、発売・販売元=ギャガ