日曜日に観たい この1本
アイの歌声を聴かせて

 サトミ(天野悟美)は、大企業、星間エレクトロニクスの実験都市・景部市に住む高校2年生。母の美津子と二人で暮らしている。美津子は星間エレクトロニクスでAI(人工知能)の研究をしており、帰宅はいつも深夜。サトミは家事を積極的にこなし、母を助けている。
 サトミが通う景部高校の生徒の親もみな星間エレクトロニクスで働いている。
 ある日、サトミのクラスにシオン(芦森詩音)が転校してきた。自己紹介の最中にシオンはサトミを見つけると、いきなりサトミの前に立ち、「今幸せ?」と聞く。そしてミュージカル劇のように歌いだすのだった。
 シオンのあまりの素っ頓狂な振る舞いにクラスの生徒たちは唖然とするが、サトミはシオンの正体を知っていた。シオンは母が開発中のAIを搭載したアンドロイドで、5日間の実証実験に入っていた。5日間AIであることがばれずに、普通の高校生だと思われていれば実験は成功。朝、内緒で母のスケジュールを確認したのだ。
 しかし、あることがきっかけで、ほどなくサトミのクラスメイトのトウマ(素崎十真)、ゴッちゃん(後藤定行)、アヤ(佐藤綾)、サンダー(杉山鉱一郎)には、シオンがAIであることがばれてしまう。星間エレクトロニクスには古臭い男社会が残っている。目立つ存在の母には敵も多い。実験が失敗したとなれば、足を引っ張られるだろう。「ガラスの天井」で苦しむ母を身近で見てきたサトミは必死に口止めを試みる。
 それでなくてもサトミはある出来事がきっかけで、「告げ口姫」と陰口をささやかれ、孤立している。トウマはサトミの幼馴染で、子どものころから機械に強く、ある意味天才的。将来は星間エレクトロニクスに入り、研究者になるという夢を持っている。サトミとは仲が良かったが、あることがきっかけで、気まずくなっている。
 ゴッちゃんはハンサムで成績もよく、男女ともに人気がある。アヤとつきあっているが、最近はうまくいっていない。サンダーは柔道部員だが、まだ勝ったことがない。AIの三太夫(さんだゆう)と稽古をしているが、三太夫がよく壊れるため、トウマにしょっちゅう修理を頼んでいる。
 それぞれに悩みをかかえる5人は、シオンの真っすぐな性格(?)に助けられ、少しずつ友情を深めてゆく。
 サトミと美津子が暮らす家は、一見どこにでもある日本家屋だが、炊事からセキュリティまで、全てAIが管理、支援している。サトミが通学のために乗るバスもAIの自動運転。街のいたるところに風車や太陽光パネルがあり、電力の多くは自然エネルギーでまかなわれているようだ。田植えをする農業支援のロボットも出てくる。近未来SFというより、その気になれば現在でも実現可能な技術のように感じる。
 タイトルの「アイ」には、「AI」と「愛」がかけられているのだろう。AIが「心」のようなものを持った時、ただの機械として扱っていいのか? そんなことも考えさせる。
 シオンの歌声がけん引役となって物語が展開する。実写を含めて、ミュージカルは苦手なのだが、シオンが突然歌いだすことも、サトミとサトミの幸せにこだわることにもちゃんと理由があり、伏線として見事に回収されていく。物語の最初に感じた違和感が消え、胸が熱くなった。【戸田 照朗】
 原作・脚本・監督=吉浦康裕/脚本=大河内一楼/声の出演=土屋太鳳、福原遥、工藤阿須加、興津和幸、小松未可子、日野聡、大原さやか、浜田賢二、津田健次郎、カズレーザー(メイプル超合金)/2021年、日本
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 「アイの歌声を聴かせて」、DVD・ブルーレイ発売中、ブルーレイ特装限定版1万780(税込)、ブルーレイ通常版6380円(税込)、DVD通常版5280円(税込)、発売・販売元=バンダイナムコフィルムワークス

© 吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会

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