日曜日に観たい この1本
ラストナイト・イン・ソーホー
ソーホー地区はイギリスのロンドンにある歓楽街。日本でいうと新宿の歌舞伎町とか渋谷のようなところだろうか。映画館や高級レストラン、風俗店が立ち並ぶ、ネオンきらめく夜の街のようだ。
主人公のエロイーズはファッションデザイナーになることを夢見ていて、ロンドンの専門学校に入学することになった。夢への第一歩を踏み出すエロイーズは希望に胸を膨らませているが、田舎からエロイーズを送り出す祖母は「ロンドンは人をのみ込む街」だと言って心配している。早くに亡くなった娘、つまりエロイーズの母について、苦い経験があるのだ。エロイーズには、ある「力」があった。子どもの時に亡くなった母の姿が見えるのだ。その母も心配そうにエロイーズの旅立ちを見送っている。
エロイーズは学生寮に入るが、寮の生活が合わずに、ソーホー地区にあるビルの屋根裏部屋を借りた。夜、移り住んだ部屋で眠りに落ちると、1960年代のソーホーにタイムリープ(自分自身の意識だけが時空を移動し、過去や未来の自分の身体にその意識が乗り移ること)する。映画館には1965年公開の「007/サンダーボール作戦」(ショーン・コネリー主演)がかかっている。
この夢の世界で、エロイーズは歌手になる夢を持ってソーホーにやってきたサンディという女の子と一体になる。もともとエロイーズは60年代に強い憧れを抱いていた。60年代のファッションや音楽、映画が大好きだ。サンディと一体となって華やかなソーホーの夜を生きるエロイーズは楽しくなり、現実の生活にも張り合いが出てくる。
自分の部屋で眠るのが楽しみになったエロイーズだが、夢の60年代世界は次第に暗転してゆく。クラブのオーディションに受かり、歌手として順調に歩み始めたかに見えたサンディだったが、そこは夢見る若い女性を食い物にする男たちの思惑が暗躍する闇の世界の入り口だった。
この作品はジャンル的にはタイムリープものであり、ホラー映画に分類されると思う。しかし、最近の映画界で起きている性行為強要問題を想起させる部分もある。古くからある男性中心社会の根深い問題を、うまくエンタメ作品として昇華している。
エロイーズを演じたトーマシン・マッケンジーとサンディを演じたアニャ・テイラー=ジョイが魅力的だ。
映像も美しく、メイキング映像を見て、二人が入れ替わりで出てくるダンスシーンはこんな風に撮ったのか、と感心した。【戸田 照朗】
監督・製作・脚本=エドガー・ライト/出演=トーマシン・マッケンジー、アニャ・テイラー=ジョイ、マット・スミス、ダイアナ・リグ、テレンス・スタンプ/2021年、イギリス
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「ラストナイト・イン・ソーホー」、ブルーレイ+DVD4980円(税込)、発売・販売元=NBCユニバーサル・エンターテイメント