日曜日に観たい この1本
君は永遠にそいつらより若い
とてもいい映画なのだが、その魅力をどこまで伝えられるか自信がない。
大学時代のあの空間に引き戻されるような、懐かしくも、切なく、愛おしい感じがした。
主人公のホリガイ(堀貝佐世=佐久間由衣)と友人のヨシザキ(吉崎壮馬=小日向星一)は私自身だと思った。
映画はゼミの飲み会のシーンから始まる。わずか数分のシーンだが、この作品のベースになるような要素が含まれているので、少し紹介したい。
文学部社会学科4年のホリガイは飲み会の席で、地元の県で就職が決まり、児童福祉司になることをみんなの前で披露された。そこへある男子学生がからんでくる。ホリガイがまだ処女なのは、なにか人格に欠陥があるようなことを言う。そんなお前が、人の人生に関与できるのかと。普通にモラハラ、セクハラだが、ホリガイが爆発する前に、ヨシザキが飲み会に参加してきて、ホリガイはヨシザキの席に避難する。ヨシザキはサークルの友人のホミネ(穂峰直=笠松将)と一緒だった。ヨシザキはホミネの身元引受のために警察まで行ってきたという。ホミネの住む集合住宅の階下に住んでいる男の子が母親からネグレクト(育児放棄)を受けており、このままでは死んでしまうと、ホミネは自分の部屋で男の子の面倒を見ていた。ところが、帰ってきた母親が騒いで警察に通報されたのだという。ホリガイはホミネの行動力に驚く。
ホミネは、なんていいやつなのだろう。飲み会の帰り道、ホリガイはホミネに児童福祉司になろうと思ったきっかけを聞かれるが、「今度会ったときに(話す)」という約束をして別れる。しかし、その「今度」は永遠に来なかった。ホミネが死んでしまったからだ。
もう一人の主人公ともいえる存在として、イノギさん(猪乃木楠子=奈緒)がいる。イノギさんは、文学部哲学科の3年。ホリガイとイノギさんとの出会いは、西洋哲学史の教室。ホリガイはほとんどの単位を取り終えていて、後は卒論を提出すれば卒業できる。その卒論を書くためのアンケートをいろんな友達にお願いしていて、哲学科4年のオカノ(岡野あかり=森田想)にも頼んでいた。オカノはたくさんのアンケートを集めてくれたが、代わりに西洋哲学史の授業に出てノートをとってきてほしいという。お安い御用と引き受けたホリガイだったが、その授業は1限だった。怠惰な生活を送っている大学生にとって、この1限というのが結構きついのだ。ホリガイはまんまと遅刻してしまい、初対面のイノギさんにノートをコピーさせてほしいと頼むことになる。私も経験があるが、初対面の人にノートのコピーを頼むのはかなり気が引ける。
こんな風に、ホリガイの大学4年の秋から卒業までの日々が過ぎてゆく。
「私には、何かが決定的に欠けている」とホリガイはよく口にする。劣等感がある。でも、バイトの後輩ヤスダ(安田貴一=葵揚)のコンプレックスには気がつけない。そして、ホリガイにとって大切な存在になってゆくイノギさんにも人には言えない傷があった。ホリガイはイノギさんの傷に気づけなかった自分も責める。
だらだらと過ぎてゆく大学生としての最後の日常。でも、実は中身の濃い、かけがえのない日々だった。それに気がつくのは、案外卒業してからだったりする。 【戸田 照朗】
監督・脚本=吉野竜平/原作=津村記久子『君は永遠にそいつらより若い』(ちくま文庫)/出演=佐久間由衣、奈緒、小日向星一、笠松将、葵揚、森田想、宇野祥平、馬渕英里何、坂田聡/2021年、日本
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「君は永遠にそいつらより若い」、ブルーレイ5280円(税込)、DVD4180円(税込)、発売元・販売元=TCエンタテインメント