日曜日に観たい この1本
犬部!
北里大学獣医学部(青森県十和田市)に実在した動物保護サークル「犬部」を創設し、「ザ・ノンフィクション 花子と先生の18年~人生を変えた犬~」(フジテレビ)で取材された獣医師をモデルに制作された作品。このサークルは「北里しっぽの会」と改称して現在も活動中だという。動物愛護をテーマにした作品を紹介するのは、堺雅人主演の「ひまわりと子犬の7日間」(2013年)以来だ。
このサークルを立ち上げた花井颯太(林遣都)と相棒的存在の同級生・柴崎涼介(中川大志)、佐備川よしみ(大原櫻子)、秋田智彦(浅香航大)の学生時代と16年後の「今」を描く。
獣医を目指す学生だから、動物が好きなのは当然だと思うが、花井颯太の場合はその思いが人一倍真っすぐで強い。一人暮らしのアパートは既に保護した動物でいっぱいだった。そんな颯太が、自転車をこいでいる時に、ふと草むらにいる犬に気づいた。早速保護したが、この犬は大学の実験で使う犬だった。動物愛護センターで殺処分される予定の犬とはいえ、動物の命を救う獣医になるための実習で、なぜ動物の命を犠牲にしなければならないのか。颯太はこの犬の命を救い、生体実習も拒否する。
このことをきっかけに犬猫の殺処分ゼロを目指して「犬部」を立ち上げる。飼い主のいない犬猫の保護や犬のしつけ、新しい飼い主を探すための譲渡会などが主な活動だ。
柴崎涼介とは動物愛護センターを見学に行った際に出会った。収容された犬を目の当たりにした颯太は全ての犬をもらい受けると職員に申し出るが、譲渡できるのは子犬だけだと言われる。
16年後、颯太は東京で動物病院を開業し、ボランティアが連れてきた野良猫の不妊去勢手術を無料で行っていた。多頭飼育崩壊に陥ったペット業者の犬を保護したところ、どういうわけか訴えられ、警察に逮捕されてしまう。
このことをテレビのニュースで知った犬部の元メンバーたちは颯太を心配して再び集まるが、そこに柴崎の姿はなかった。
以前に富里市にある千葉県動物愛護センターを取材したことがある。収容されている犬猫を見て、この子たちを全部連れて帰りたいと思った。殺処分された犬猫を焼く煙突の煙と、センターの片隅にある慰霊碑を今でも思い出す。取材で、センターの職員に獣医師が多くいることに気が付いた。どんな気持ちで殺処分をしていたのだろう。
柴崎は動物愛護センターの職員として犬猫の殺処分をなくすという道を選択した。颯太とは対照的だが、むしろ苦しい道だと思う。
犬部で猫担当だった佐備川よしみは伝染病で多くの猫を死なせてしまったという苦い経験から、ワクチンを作るために研究者になった。
教授のもとで実験動物の管理をしていた秋田智彦は父親が経営する動物病院で働いている。動物保護に積極的に取り組む病院にしたいと父親に申し出るが、経営を優先する父親からは否定される。秋田はいつも誰かに頭を押さえつけられている。
ド直球の動物愛護映画で、このような作品が制作されたことに感謝したい。惜しむらくは、大学時代と16年後のエピソードが行き来するのではなく、時系列で描かれた方が分かりやすかったと思う。【戸田 照朗】
監督=篠原哲雄/脚本=山田あかね/原案=片野ゆか『北里大学獣医学部 犬部!』(ポプラ社刊)/出演=林遣都、中川大志、大原櫻子、浅香航大、田辺桃子、安藤玉恵、しゅはまはるみ、坂東龍汰、田中麗奈、酒向芳、螢雪次朗、岩松了/2021年、日本
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