日曜日に観たい この1本
ブータン 山の教室
ブータン映画を見るのは初めてかもしれない。
国王がGDP(国内総生産)やGNP(国民総生産)ではなく、GNH(国民総幸福量)を提唱する「世界一幸せな国」。しかし主人公の青年ウゲンはオーストラリアへの移住を夢見ている。
この国の教職の制度がどうなっているのかは分からないが、新人教員のウゲンは5年間の「義務」期間の5年目に標高4800メートルの「世界一僻地にある」ルナナ村への赴任を言い渡される。「こんなにやる気のない教員は初めて」と上役に言われるほど、ウゲンはやる気がない。教師は自分には向いていないから辞職して、オーストラリアで歌手になるつもりだ。住んでいる首都のティンプーは人口約10万人の都市で、先進国の都市のように何でもある。
ルナナ村まではバスで半日、徒歩で険しい山道を8日もかかる。都会暮らしのウゲンには厳しい道のりだ。途中には人口3人という村もあった。ミュージシャンを目指しているウゲンはずっとヘッドフォンをしたまま。都会をそのままヒマラヤ山脈の麓まで連れてきているようだ。
人口56人のルナナ村には電気もなく電話も通じない。早速「自分にはここの生活は無理。帰りたい」と弱音をはくウゲンだったが、彼を待っていたのは「子どもたちに教育を」と願う村人たちの想いと、好奇心でキラキラ光る子どもたちの瞳と笑顔だった。
生活の糧として神聖なヤク(牛のようなこの地方の家畜)の歌を唄う少女セデュの歌声に魅せられ、貴重な紙や鉛筆を大切に使う質素で素朴な生活に触れるうち、ウゲンの気持ちにも変化が生まれる。
貧しい村なのに子どもたちは美しい民族衣装を着て登校する。それだけ、学校は特別なところなのだ。
「先生は、未来に触れることができる」と村長は話す。
幸福とは何だろうと考えさせられる。ウゲンは生まれて初めて「必要とされる」幸福を味わっているのかもしれない。
夏が終わり、冬が始まる前に学校を閉めて山を降りる約束だ。ウゲンはどうするのだろう。
どこかドキュメンタリータッチの映画。山の絶景が美しく、映画館のスクリーンで見たかったと思う。驚いたことに、子どもたちは本当にこの村に住む子で演技経験はないという。ジャケット写真に主人公が出ていないのも珍しい。写真の女の子は学級委員のペム・ザム(役名も同じ)。この映画では子どもたちの笑顔こそ主役ということなのかもしれない。
【戸田 照朗】
監督=パオ・チョニン・ドルジ/出演=シェラップ・ドルジ、ウゲン・ノルブ・へンドゥップ、ケルドン・ハモ・グルン、 ペム・ザム/2019年、ブータン
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「ブータン 山の教室」、ブルーレイ&DVD発売中、ブルーレイ税抜4800円、DVD税抜3900円、発売元=株式会社ドマ、販売元=株式会社ハピネット・メディアマーケティング