本よみ松よみ堂
有川ひろ著『みとりねこ』

講談社 1550円(税別)

「旅猫リポート外伝」2編を含む猫を題材にした短編集

 有川ひろ(浩)さんが書いた猫を題材にした短編集。7編が入っており、嬉しいことに、最初の2編は「旅猫リポート外伝」となっている。「旅猫リポート」は映画にもなったので、ご存知の方も多いかもしれない。2012年の刊行時にこの欄でも紹介した。私が読んだ猫の出てくる小説の中でも一番感動した一冊だ。
 「旅猫リポート」。野良猫のナナは交通事故にあって大けがをした際に助けてくれたサトルと暮らし始めた。それから5年が経ち、ある事情からサトルはナナを手放さなくてはならなくなり、銀色のワゴンに乗って、新しい飼い主を探し求める旅が始まる。それは、サトルがこれまでの人生で出会った人たちを訪ねる旅でもあった。
 ナナは雄猫だ。女の子みたいな名前が気に食わない。サトルが少年の頃に飼っていた猫がハチといい、ナナの尻尾が7の字のかぎ尻尾だったことからつけた。第1話の「ハチジカン」は、そんなハチの話だ。小学生だったサトルが初めて猫を飼い、両親の死によって猫との別れを余儀なくされる。「旅猫リポート」の前提となる話だ。
 有川さんの猫の描き方がうまいと思うのは、猫はヒアリングに長けていて、人間の言葉はわかるが、人間の言葉は話せないという設定にしてあることだ。猫を飼っていると「どうしてこんなことをするんだろう」と思うことがある。たぶん猫にはそれなりの理由があるのだろうけれど、人間にはわからない。単なる猫の擬人化ではないため、すんなりと話が入ってくる感じがする。
 猫は人間に比べると記憶力は劣る。ハチは新しい飼い主となったサトルの親戚の家で、サトルと同じ年頃の少年をサトルと混同してしまう。切なくて、泣けてくる。
 第2話の「こぼれたび」は、「旅猫リポート」の旅の途中の話だ。サトルは大学の恩師・久保田寿志(ひさし)を訪ねる。サトルは久保田のゼミの学生だった。久保田の家族とも親しかったが、あることがきっかけで久保田とは気まずい別れをしたまま卒業した。
 有川さんの作品は絶妙に「視点」が変わるのだが、この作品は「旅猫リポート」と同じく、ナナの語りからはじまり、途中、久保田の視点も入る。ちなみに、「ハチジカン」はハチのことを「彼」と書いているので、いわゆる「神の視点」の書き方も入る。
 「こぼれたび」と同じく猫視点で書かれるのが7話目の表題作「みとりねこ」だ。
 浩太という人間みたいな名前の猫が主人公。この家の次男坊・浩美と同じ年に生まれた浩太は20年間、浩美と兄弟のように育った。自分の方が先に生まれたのに三男扱いなのが不満である。
 だが、猫は人間より早く大人になり、早く年をとる。いつも醤油に浸した肉球でテーブルクロスにハンコをペタペタ。家族で一番背が高くなった浩美の背中を駆け登る。ただのいたずらにしか見えない行動も、浩太なりの理由があった。
 ほかに「猫の島」「トムめ」「シュレーディンガーの猫」「粉飾決算」という家族と猫を題材にした作品が収められている。【奥森 広治】

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