日曜日に観たい この1本
浅田家!
実話を基にした作品。幼いころ、写真好きの父からカメラを譲ってもらった浅田政志(二宮和也)は、写真が大好きになり、やがて写真の専門学校へ。
家族の誰もがそのまま写真家の道に進むと思っていたのだが、卒業した後も家でぶらぶらしている。撮りたいものが自分でも分からないのだ。
そんなある日、父の若いころの夢を聞いたことをきっかけに、父(平田満)、母(風吹ジュン)、兄(妻夫木聡)、自分の4人家族を被写体に、「家族がなりたかったもの」「家族でやってみたいこと」をテーマに様々なシチュエーションでコスプレして撮影するようになる。
普通の家族が、消防士、バンドマン、レーサー、極道、ラーメン屋など、全力でなりきった姿を収めた写真は、思わず笑みがこぼれる。
政志はこの「家族写真」を持って東京へ。幼なじみの若奈(黒木華)のアパートに転がり込んで、プロの写真家を目指すことになる。
写真集「浅田家!」は、写真界の芥川賞ともいわれる第34回木村伊兵衛写真賞(2008年度)を受賞した。
「家族写真」は政志のライフワークのようになっていく。写真を撮ってほしい家族を募集したところ、最初に声をかけてくれたのが岩手県に住む家族だった。
2011年3月11日、この家族が住む街を東日本大震災の津波が襲った。政志は家族の無事を確かめるため東北へ向かう。家族の行方は分からなかったが、津波で泥だらけになった写真を洗浄し、元の持ち主に返すボランティア活動をする大学院生の小野(菅田将暉)に出会い、その活動を手伝うようになる。
笑いと涙のバランスがとても良い作品だと思った。
最初はコメディタッチで進んでいた物語が大震災のあたりから、グッとしまってくる。
東京に出てきた政志は写真を持って30社も出版社を回るがどこも相手にしてくれない。政志の写真の良さに気づいてくれたのは、個人経営のような小さな写真出版社だった。出版社の裾野は広い。捨てる神あれば拾う神あり、だ。私はこのくだりが好きだ。
政志の家族は少し変わっていて、母が看護師として働き、父は家にいて「主夫」をしている。「普通」って何だろう。いつも家族を心配させ、そして喜ばせるのも政志だ。そんなふうに思う兄の気持ちも考えたりする。
写真が持つ意味も考えさせられた。今はデジタルの時代。データは一瞬にして消えてしまう。これからの写真はどのようにして残っていくのだろうか。
【戸田 照朗】
原案=浅田政志/監督・脚本=中野量太/出演=二宮和也、平田満、風吹ジュン、妻夫木聡、黒木華、菅田将暉/2020年、日本
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「浅田家!」、ブルーレイ&DVD発売中、発売・販売元=東宝株式会社
©2020「浅田家!」製作委員会