本よみ松よみ堂
森見登美彦著(上田誠原案)『四畳半タイムマシンブルース』

 単行本の扉の裏には「本書は上田誠『サマータイムマシン・ブルース』を原案とし、森見登美彦『四畳半神話大系』にもとづき執筆されたオリジナル作品です」とある。
 2005年公開の映画『サマータイムマシン・ブルース』(本広克行監督)は下欄「日曜日に観たいこの1本」でも紹介したことがある。上田誠の戯曲が原作。
 映画には若き日の(今でも若いけど)瑛太、上野樹里、ムロツヨシ、真木よう子など、今をときめく俳優陣が出演している。ロケに使われたのは四国学院大学という香川県にある私立大学。ホワイトハウスと呼ばれる白い木造の校舎と青い芝生の広場が印象的だった。SF研究会の男子学生たちとカメラクラブの女子学生2人が繰り広げる青春ドタバタコメディ。夏休みのSF研究会の部室で、こぼれたコーラがかかってクーラーのリモコンが壊れてしまう。このクーラーは手動でスイッチを入れることができず、リモコンがないと動かない。蒸し風呂のような暑さに音を上げる学生たち。そんな時現れたのはタイムマシンに乗った未来の学生だった。
一計を案じた学生たちはタイムマシンに乗って昨日に行き、壊れる前のリモコンを取ってこようとする。ところが過去を改変すると世界が崩壊する危険性があることに気づき、元のようにリモコンが壊れるようにしようと右往左往。まさにタイムマシンの無駄遣いだ。
 本書のストーリーも基本的に同じ。森見登美彦の作品を全て読んだわけではないが、今まで読んだ作品は学生が主人公のことが多かった(まれに狸が主人公の時も)。それもちょっと古風な学生。著者の母校である京都大学にはまだそんな雰囲気が残っているのだろうか(著者の願望という気もする)。「四畳半」という響き自体、既に古風。「宇宙戦艦ヤマト」や「銀河鉄道999」で知られる松本零士の初期作品にも「四畳半」はよく出てきた。「四畳半」と「青春」が結びついていたのは、1960年代から70年代頃のように思う。
 舞台となるのはサークルの部室ではなく、「下鴨幽水荘」という今にも倒壊しそうな木造3階建ての京都にある四畳半の学生アパート。登場人物は学生アパートの住人たちと大家さん、映画サークルの学生たち。ヒロインとなる女子学生は写真ではなく映画を撮っている。映画と同じように銭湯やヴィダルサスーンというシャンプー、河童の銅像やケチャという犬も登場する。
 読みながら時に映画の場面が脳裏に浮かんだ。そして声を立てながら笑った。8月11日と12日を何度も行き来する、実はややこしい話なのだが、それを文章で上手く表現している。

【奥森 広治】

角川書店 1650円(税込)

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