日曜日に観たい この1本
ラスト・クリスマス

©2019 Universal Studios and Perfect Universe Investment Inc. All Rights Reserved.

 クリスマスソングの定番、ワム!(ジョージ・マイケル)の「ラスト・クリスマス」をモチーフにした作品。ワム!の曲が流行った1980年代はまさに私の青春時代と重なるが、個人的にはワム!に特別な思い入れはない。しかし、この作品は甘いだけのラブストーリーではなく、背景にある社会問題が苦味として効いているところが気に入っている。
 ロンドンのクリスマスショップで働くケイトは、口うるさく心配性の母親を嫌って家出中。友達の家を転々としていたが、自分勝手な行動がたたってそこも追い出されてしまう。仕事にも身が入らず大きな失敗をしでかし、クビになりそうだ。歌手を目指しているがミュージカルのオーディションに落ちまくり、先も見えない。八方塞がりのケイト。実はケイトという名前は自分で付けた通称のようだ。ケイトの家族はユーゴスラビアから難民としてイギリスに移住してきた。親に本名を呼ばれて否定するというやり取りがコミカルに描かれている。名前のやり取りは、ケイトが自分自身を受け入れられていないということの象徴のように感じる。また、母親が心配症なのには理由がある。ケイトは大病を患ったことがあるようなのだ。それなのに毎晩のように酒を飲んで、自分の体を大切にしているようには見えない。
 そんなケイトの前にトムという青年が現れる。軽やかにステップを踏んでケイトを散歩に誘う。現れるのはいつも突然。タイミングも絶妙。この愉快で爽やかな青年にケイトも惹かれていく。
 ケイトの周辺には有色人種が多い。クリスマスショップのオーナーは中国人女性。トムも東洋系の顔立ちをしている。一夜の宿を借りた友人の家にはインド系(多分)と黒人のカップルが暮らしていた。ケイトのいるコミュニティが何となく分かる。ブレグジット(欧州連合離脱)で揺れるイギリス。移民排斥を訴えるデモ行進をテレビで見てケイトの母親は震えている。
 クリスマスシーズンの極寒のロンドン。トムはホームレスのシェルターでボランティアとして働いているという。トムに導かれるようにケイトもシェルターに関わるようになる。シェルターにいるホームレスには白人の姿が目立つ。ナショナリズムや人種の対立ではなく、「融和」がこの作品の隠れたテーマのように思う。
 全体的には気楽に見られるラブコメディだ。クリスマスショップのオーナーの中国人女性は店に通う白人紳士と恋に落ちる。ケイトがこの二人の恋を応援するという微笑ましいシーンもある。トムとの出会いでケイトも少しずつ自分を取り戻してゆく。
 トムの口癖は「ルック・アップ(上を見ろ)」。トムの秘密が明らかになる後半は感涙だった。
 ケイトの母親を演じたエマ・トンプソンの原案で製作と脚本に関わっている。【戸田 照朗】
 監督・製作=ポール・フェイグ/製作・原案・脚本=エマ・トンプソン/出演=エミリア・クラーク、ヘンリー・ゴールディング、ミシェル・ヨー、エマ・トンプソン/2019年、アメリカ
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 『ラスト・クリスマス』、ブルーレイ税別1886円、DVD税別1429円、発売元=NBCユニバーサル・エンターテイメント

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