日曜日に観たい この1本
黒い司法 0%からの奇跡
実話に基づいた物語。1980年代、ハーバードを卒業した新人弁護士ブライアンは、志を持って南部のアラバマ州を訪れた。黒人死刑囚の冤罪事件に取り組むために。
白人女性を殺害した罪で死刑判決を受けたウォルターという死刑囚に面会したブライアンは、疑問を持ち事件を洗い直す。すると、明確なアリバイと幾人もの証人がいることがわかった。有罪の決め手とされた重犯罪を犯して服役中の白人男性の目撃証言もかなり不自然だ。何よりウォルターには動機がない。
再審を勝ち取ろうとするブライアンだが、新たな証言を約束した証人やブライアン本人、そして同じ志を持って支援してくれる白人女性エバに対しても卑劣な脅迫や嫌がらせが始まる。果たしてブライアンたちは、再審無罪を勝ち取ることができるのか。
1980年代でも、これほど黒人差別が激しかったのか……と書きたいところだが、黒人男性が白人警官から膝で首を圧迫されて死亡した事件を引き金に起きた大規模なデモや暴動はつい最近の出来事。60年代の公民権運動以降もずっと続いている問題なのだと思う。
北部と南部でどれほど黒人の扱いが違うのか。実際に見たことがないので、私には分からないが、弁護士であるブライアンも様々な屈辱を味わう。車を止められて、警官になぜ止めたのかを聞いても答えない。薄笑いの表情は「お前が黒人だからだ」と言っているようだ。死刑囚の面会に訪れた拘置所でも辱めを受けた。
「お前は何もわかってない。黒人は生まれながら有罪なんだ」。
初めて面会に訪れたブライアンにウォルターが投げつけた言葉が、その絶望の深さを物語る。
いつ刑が執行されてもおかしくないという毎日はどれほど恐ろしく、残酷なものか。ウォルターは隣り合った房の死刑囚たちと励まし合っていた。その一人は、ベトナム戦争に従軍し、帰国後PTSD(心的外傷後ストレス障害)によって事件を起こし、死刑判決を受けた。彼のいるべき場所は拘置所ではなく病院だ。彼は、国家によって2度殺されようとしている。ブライアンは刑の執行を停止するために奔走する。
ブライアンの情熱を肌で感じ、次第に信頼を置き始めたウォルターは、忘れていた希望を再び持ち始める。しかし、希望を持てば果たせなかった時の絶望も大きくなるのだ。
冤罪事件は日本でも起きている。偏見や予断、思い込みによる捜査など、相通じる点が多い。国家が人を殺す死刑は本当に正しいのか。そんなことも考えさせられた。
いささか、難しい話になってしまったが、映画としてのエンターテイメント性や高揚感にも長けた作品である。【戸田 照朗】
監督=デスティン・ダニエル・クレットン/脚本=デスティン・ダニエル・クレットン、アンドリュー・ランハム/出演=マイケル・B・ジョーダン、ジェイミー・フォックス、ブリー・ラーソン/2019年、アメリカ
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