本よみ松よみ堂
藤崎翔著『指名手配作家』
ゴーストライター逃亡作家の数奇な運命
小説家の大菅賢は担当編集者の添島茂明に喫茶店でグイグイやり込められていた。賢はデビュー作こそ増刷されたものの、その後の4冊は全て初版止まり。運も悪い。添島は作家を育てる気があるのか、あまり作家仲間の間では評判が良くなかった。賢は高圧的な添島と口論となってしまい、はずみで死なせてしまう。
茨城県に逃げた賢は偶然、橋の上から飛び降りようとしていた桐畑直美と出会い、彼女の家で潜伏生活を始めた。そして、直美のゴーストライターとして再デビューを目指す。傷害致死の公訴時効までは20年。果たして逃げ切れるのか…。
嫌な奴とはいえ、人を死なせてしまっているという現実の重さや、賢の実家に押しかけるであろうメディアスクラムなどの報道被害。想像される嫌な部分は数々あるが、サスペンスコメディという軽いタッチで、物語は進んでいく。
賢が捕まれば直美も犯人蔵匿罪に問われる。運命共同体となった二人はやがて夫婦のようになってゆく。読み始めたときは、賢のキャラクターが少し軽すぎないかと思っていたが、二人の関係が深まるにつれ、夫婦ってこんなふうに出来上がっていくのかもしれないと思うようになった。
賢と直美のゴーストライター作戦は意外な展開を見せていく。お話が平和に、穏やかに進みかけたところで、定期的に小さなクライマックス(緊張感)が仕掛けられている。ページ数が少なくなるにつれ、「最後まで逃げ切ってほしい」という思いと、「やはり罪は償うべきなのでは」という思いが交差する。
結末はもちろん書けないが、読後感は悪くなかった。
【奥森 広治】