日曜日に観たい この1本
アルキメデスの大戦

©2019「アルキメデスの大戦」製作委員会 ©三田紀房/講談社

 1933年(昭和8年)。欧米列強との対立を深め、軍拡路線を歩み続ける日本。海軍省は、世界最大の戦艦を建造する計画を秘密裏に進めていた。だが省内は決して一枚岩ではなく、この計画に反対する者も。「今後の海戦は航空機が主流」という自論を持つ海軍少将・山本五十六(舘ひろし)は、巨大戦艦の建造がいかに国家予算の無駄遣いか、独自に見積もりを算出して明白にしようと考えていた。しかし戦艦に関する一切の情報は、建造推進派の者たちが秘匿している。必要なのは、軍部の息がかかっていない協力者…。  
 山本が目を付けたのは、100年に1人の天才と言われる元帝国大学の数学者・櫂直(かいただし)(菅田将暉)。ところがこの櫂という男は、数学を偏愛し、大の軍隊嫌いという一筋縄ではいかない変わり者だった。頑なに協力を拒む櫂に、山本は衝撃の一言を叩きつける。「巨大戦艦を建造すれば、その力を過信した日本は、必ず戦争を始める」。この言葉に意を決した櫂は、帝国海軍という巨大な権力の中枢に、たったひとりで飛び込んでいく。同調圧力と妨害工作のなか、櫂は巨大戦艦の秘密に迫る(以上、作品紹介資料より)。
 講談社の雑誌で連載中の三田紀房さんの同名マンガが原作。単行本は17巻まで出ているが、概ね3巻までの内容で作られているという。
 「巨大戦艦」とは、言わずと知れた「大和」。大和の建造を阻止することが戦争回避につながるという発想は、今までの戦争映画には見られなかった視点だと思う。
 作品は巨大戦艦大和が米軍の戦闘機グラマンの総攻撃を受けて沈没していくシーンで始まる。巨大な熊が小さな蜂の攻撃を受けて絶命していくようだ。そして、こんなシーンがある。大和甲板で機銃を操作していた若い日本兵が敵機を撃ち落として喜ぶ。敵機のパイロットはパラシュートで脱出。すると、水上機が着水し、パイロットを救出してゆく。その光景を呆然と見ている若い日本兵。言葉はないが、何か日本とアメリカでは兵士の命の重さが違う。余裕が違う。そんなことを思わせるシーンだ。残酷なほどの現実を見せつけ、感傷に流されない描き方に好感を持った。
 当時の日本は国家予算の4割を軍事費に使っていた。庶民が貧乏から脱出できるわけがない。アメリカと日本では国力が違いすぎる。戦争をすれば必ず負けると合理主義者の櫂も山本五十六も分かっていた。
 巨大戦艦建造推進派の出した見積もりは、あまりにも安すぎる。そのカラクリを暴くために櫂は独自に戦艦の設計図を書いてゆく。山本に櫂の付き人を命じられた田中正二郎少尉(柄本佑)は、型破りな櫂に最初は反発を覚えたものの、しだいに心を一つにして、2週間で本当の見積もりを出すという難題に挑む櫂を助けていく。
 少ない見積もりで話を通しておいて、後で予算が膨らんでいく…。どこかで見た光景ではないだろうか。今と変わらぬ日本の組織のあり方、海軍省内の官僚のドタバタもコミカルに描かれている。
 誤解を恐れずに言えば、大和も零戦も美しい。スピルバーグ監督の「太陽の帝国」に出てくる零戦に憧れるイギリス人少年、宮崎駿監督の「風立ちぬ」の堀越二郎のように、数学に魅せられている櫂直に大和の美しさが分からないわけはない。そこには逃れられない葛藤がある。
【戸田 照朗】
 監督・脚本・VFX=山崎貴/出演=菅田将暉、柄本佑、浜辺美波、笑福亭鶴瓶、小林克也、小日向文世、國村隼、橋爪功、田中泯、舘ひろし/2019年、日本
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 『アルキメデスの大戦』DVD通常版、税別3800円、発売中、発売・販売元=東宝

©2019「アルキメデスの大戦」製作委員会 ©三田紀房/講談社

©2019「アルキメデスの大戦」製作委員会 ©三田紀房/講談社

©2019「アルキメデスの大戦」製作委員会 ©三田紀房/講談社

©2019「アルキメデスの大戦」製作委員会 ©三田紀房/講談社

©2019「アルキメデスの大戦」製作委員会 ©三田紀房/講談社

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