松戸市民劇団が40周年
3月7・8日に記念公演「ひぐらし食堂」(延期)
NPO法人松戸市民劇団創立40周年記念公演「ひぐらし食堂」が森のホール21小ホールで、3月7日午後5時開演と8日午後1時開演の2回行われる(8月9日18時開演、8月10日11時開演に延期、会場を松戸市民会館に変更)。昭和55年(1980)の第1回公演「待合室の春」から数えて88回目の公演となる。劇団員はそれぞれに仕事を持つため、土日の夜に八柱の白髭神社の集会場と劇団のアトリエ「劇舎(しばいや)」で稽古している。【戸田 照朗】
この作品は、劇団員OBの名誉団員・長谷川貞雄さん(昭和7年生、87歳)が、自らの戦中・戦後体験をもとに、同劇団にあてて書いたもの。両親がかつて日暮里駅前で食堂を経営していたこともあり、それがこの作品の舞台「ひぐらし食堂」の背景となっている。
物語は終戦間もない昭和21年、戦争の傷跡がまだまだ残っている東京の下町が舞台。駅前で食堂を経営する夫婦の娘の清子は、日系2世のアメリカ兵を家に招待したいと言い出し、両親はあわてるが、心温まる交流に。そんな優しい夫婦を、戦争で親とはぐれた孤独な少女綾子が慕ってくるようになり、元特攻隊員で生き残った英輔は彼女をかばう。ある日食堂の不良息子邦夫が地元のヤクザにこてんぱんにやられて大ケガ。英輔は邦夫にかわってヤクザへの報復に向かう。
前島英輔を演じる向後文大さんは劇団に関わって30年ほど。「特攻隊員で戦争で死ぬはずだったのに、生きて帰ってきたら、家族がみんな死んでいて、さらに悲惨な地獄を味わうという役です。私の父も予科練第13期で特攻に行く予定だった。親父はどんなことを考え、どんな風に生きていたのかな、ということを考えざるを得ません。演技ではありますが、しゃべり方、反応の仕方、間の取り方、どれをとっても自分の中から出てくるもので、父親のことも追体験している。そういう意味で今回の役は心に染みます」と話す。
長女・清子を演じる高梨美沙子さんは、入団して35年。「劇団活動がなかったら今の自分はないと思っています。仕事の上でも、プライベートでもコミュニケーションが得意ではないので、ここで訓練されることで人と話すことも少しましになったな、と思います。劇団と仕事を両輪のようにやってきました。みなさんに『いい趣味よね』と言われると違和感がある。芝居を作るのは苦しいことのほうが多いから、趣味ではないな、と思う。ライフワークというと大げさな感じはしますが、そんな感じです」。
長男・邦夫を演じる向後直紀さんは、入団28年。「働いて土日に稽古するというのがサイクルになっているので(劇団の活動は)もう空気みたいな感じです。長谷川さんが10年ほど前にいた劇団員にあてて書いているので、当時だったら勢いでやっていたと思うんですが、年をとったぶんいろんな人生経験をしているから、経っている年数の分だけいい味があるようにしたいですね」。
伊織を演じる深山能一さんは、入団して15年。「戦争から帰ってきたら奥さんも子どもも死んでいて、一人で、一文無しから、周りの人に助けてもらって戦後を生きていく、という役です。関係した方々のつちかってきた積み重ねの上にこの40周年があると思うので、多くの方々が劇団を作ってくれたことに感謝しています。市民劇団との関わりは、まちづくりの関係で脚本を書いて演じてもらったのがきっかけ。ずっと長くお付き合いさせていただいてありがたいと思いますし、ものを生み出すのが好きだから劇団にたずさわらせていただいているのだと思います」。
拍手と団員に支えられ
同劇団の理事長で、演出と食堂の主人・謙三の妻・よねを演じる石上瑠美子さんは、「戦争を経験した世代がいなくなるなか、親から戦争のことを聞いた世代として、若い劇団員にも伝えていきたいし、お客様にも伝えたいメッセージを込めた」と話す。「最初からのメンバーもいるし、一番最初から見てくれているお客様もいる。ありがたいことです。お客様の拍手がなければこんなに長く続かなかった。劇団はいい時も、悪い時もあった。いい思い出ばかりではないけれど、チームワークは今がいちばんいい」。
昭和54年(1979)、市社会教育課と協力して開いた演劇講座がきっかけで、松戸市民劇団は生まれた。当時は市民劇場もまだなく、初公演は矢切公民館で行われた。稽古は市民センターなどでしていた。
当初は公演をやるごとにだれかがケンカをして辞めるという状態で安定しなかった。社会教育課の職員や顧問になってくれた劇団民藝の高山秀雄氏にずいぶん助けられたという。この頃、石上さんは4歳の息子を事故で亡くしている。劇団を忙しく続ける石上さんの耳には心ない言葉も聞こえてきたが、一人にならずにすむことで、なんとか心の安定を保つことができた。40年続けてこられたのは「前を見ればお客様がいる。後ろを見れば劇団員がいる。勝手に投げ出すわけにはいかなかった。自分が舞台に立ちたいというよりも、ついてきてくれる劇団員の場所を作っておかなくてはいけないし、次を期待してくれるお客様にも応えなくてはならない。そういった責任感だった」。
10年後、稽古場を転々としていた市民劇団がアトリエ「劇舎」を設けたのが、八柱駅前のマンションの一室だった。2DKの部屋を改装し、稽古場兼小劇場が誕生した。仲介したのは、後援会長でもあるサンヨーホームの金本光弘会長。市民センターのように時間を気にせず芝居に没頭できる空間を得たことで、市民劇団の活動は飛躍的に広がっていった。「劇舎」で行うアトリエ公演は観客との距離も近く、小劇場独特のアットホームな雰囲気に包まれる。市民劇場や森のホール21など大きなホールでの公演をやる場合には、白髭神社の集会場などを使って稽古をすることもある。
石上さんは、「八柱さくらまつり」の司会も毎年務めている。また、松戸市と鳥取県の交流イベントや復興支援チャリティショーなどの活動にも同劇団が貢献している。
同公演のチケットは前売り2,000円。当日3,000円。チケットはすべて自由席で、日時別。問い合わせ、申し込みは、☎047・727・7825(10時~17時)松戸探検隊ひみつ堂(松戸1874、松戸商工会議所斜め向かい)。☎090・8101・9347松戸市民劇団、石上さん。