日曜日に観たい この1本 翔んで埼玉
1980年代の初めの頃に描かれた魔夜峰央の未完の漫画が原作。魔夜峰央は「パタリロ!」の作者で、内容はかなりハチャメチャなナンセンスギャグ映画である。
熊谷市在住の家族がワンボックスカーに乗って、東京に向けてドライブしている。きょうは娘(島崎遥香)の結納の日。婚約する男性も埼玉県人だが、東京に憧れる二人は東京に新居を構えるという。父(ブラザートム)は埼玉県人だが、母(麻生久美子)は千葉県人(どうやら東葛地域のどこかの市らしい)。車中、地元のFM局NACK5からラジオドラマ風に流れてきたのは、埼玉県にまつわる「都市伝説」だった。
19XX年の日本。埼玉県民は東京都民からひどい迫害を受けていた。通行手形がないと東京に出入りすらできず、手形を持っていない者は見つかると強制送還される。実は千葉県民も同じ立場で、神奈川県民だけが特別扱いで手形がなくても東京に出入りすることができた。
東京にある、超名門校・白鵬堂学院では、都知事の息子の壇ノ浦百美(二階堂ふみ)が、埼玉県人を底辺とするヒエラルキーの頂点に、生徒会長として君臨していた。この学校ではクラスを出身地別に分けており、A組が赤坂や青山、B組が中央区や新宿区、E組が田無や八王子で、一番下にZ組として東京在住の埼玉県民がいた。彼らは掘っ立て小屋のようなところで勉強している。そこへアメリカ帰りの転校生・麻実麗(GACKT)が入学してくる。容姿端麗で都会指数も高い麗はすぐに学院の人気者に。ライバルの登場に最初は敵意を抱いていた百美だが、麗に恋心を抱くようになる(どちらも男性)。
麗は実は隠れ埼玉県人で、通行手形制度撤廃を目指して活動する埼玉解放戦線の主要メンバーだったのだ。その正体がばれて追われる身となった麗に、百美は地位も未来も投げ捨ててついていく。
2人の逃避行に立ちはだかるのは、埼玉の永遠のライバル・千葉解放戦線のリーダーであり、壇ノ浦家に仕える執事の阿久津翔(伊勢谷友介)だった。通行手形撤廃を巡る埼玉vs千葉の争いのなか、伝説の埼玉県人・埼玉デューク(京本政樹)が登場する…。
前半は学園ドラマ、後半はなぜか戦国時代劇のようになってゆく。
埼玉に限らず、関東に住む人にとっては、かなり笑える内容なのではないかと思う。関東以外の人が観ても面白いとは思うが、地名が出てくる細かいネタが多いので、関東での生活が長い人のほうが楽しめるだろう。
主役はあくまで埼玉なのだが、千葉のことがかなり出てくるのが、うれしかった。特に埼玉県と江戸川を挟んで県境を接している東葛地域が重要な舞台となっている。
千葉解放戦線と激突することになった麗は「敵は流山橋にあり!」と同胞を鼓舞して出陣するのである。
映画が始まって30分ぐらいは徹底的に埼玉がディスられる。下手をすると差別的な表現にもなりかねないが、ふり切ったナンセンスギャグの連発で、うまくまとめている。
そして後半は、笑いながらもなぜか胸がジーンとしてきて、気がつけば泣きそうになっている自分に驚いた。千葉県に住んでいる私でさえそうなのだから、埼玉県の人はもっと感動したのではないだろうか。
ありえないようなばかばかしい場面だからこそ、本気で丁寧に作る。これはコメディ映画が成功するためにとても大切なことだと思う。例えば、「ブルース・ブラザーズ」のカーチェイスシーンなど、アクション映画顔負けである。
今作のクライマックス、都庁前を全面通行止めにして撮影したというシーンも本当にすごかった。
【戸田 照朗】
監督=武内英樹/出演=二階堂ふみ、GACKT、伊勢谷友介、ブラザートム、麻生久美子、島崎遥香、成田凌、中尾彬、間宮祥太朗、加藤諒、益若つばさ、武田久美子、麿赤兒、竹中直人、京本政樹/2019年、日本
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「翔んで埼玉」通常版、ブルーレイ税別4800円、DVD税別3800円、発売中、販売元=東映・東映ビデオ、発売元=フジテレビジョン