日曜日に観たい この1本
日日是好日

 

 

 

 

 森下典子さんの『日日是好日│「お茶」が教えてくれた15のしあわせ│』というエッセイが原作。
 20歳になった典子(黒木華)は、同い年の従妹、美智子(多部未華子)と近所に住む武田先生(樹木希林)のもとで、毎週土曜日、お茶を習うことになった。
 お茶を勧めたのは母(郡山冬果)で、そのお辞儀の仕方からして武田先生は「タダモノではない」という。
 「竹を割ったような性格」だという美智子に対して典子は真面目で、理屈っぽくて、おっちょこちょい。お茶を習うことに乗り気ではなかったが、美智子が「習いたい」と積極的なので、しかたなく一緒に習うことにした。
 それから24年。就職の失敗、美智子の結婚、失恋、といろんなことがあったが、典子は今でもお茶を習い続けている。なかなか思い通りにいかない人生だが、典子は恵まれているとも思う。特に両親。優しく見守る父(鶴見辰吾)がすごくいい。
 典子は子どものころに親に連れられて、フェリーニ監督の「道」という映画を観たが、意味が分からなかった。しかし、大学生になって再び「道」を見たとき、涙が止まらないほど感動した。そして、30代になって観た「道」には、また違った発見があった。
 世の中には「すぐにわかるもの」と「すぐにはわからないもの」とがある。お茶もフェリーニの「道」のように、長い時間をかけないとわからないもののようだ。
 なぜこんな細かい作法があるのか。なぜそうするのかと聞いても、武田先生は「そういうものなのよ」と答えるだけ。頭で考えるのではなく、体で覚える。赤ちゃんのように何も分からなかった典子と美智子。でも、24年たってもまだぼんやりとしかわからない。
 主人公の典子の人生に起こっているであろう様々な出来事は垣間見える程度で、積極的には描かれない。あくまでお茶室から見える風景から、人生の機微を描くという演出になっている。
 観る環境を選んだほうがいい作品だと思った。この作品では水の音や雨の音など、音がとても大切な要素となっている。映画館では、ある意味逃げ場がなく、画面に集中して観ることができる。自宅でDVDを観る際は、なるべく静かな環境を用意したほうがいい。
 大暑、立冬、大寒、春分など、1年を24の季節に分ける二十四節気の言葉が劇中には意識的にちりばめられている。若い時には暑いか寒いかぐらいしか分からなかった典子の感性が、年をおうごとに、雨の音や土の匂いから、細かい季節の変化を感じ取れるようになっていく。そんな、茶室の中の精神の冒険を描こうとしている。
 日日是好日(にちにちこれこうじつ)とは、簡単に言うと毎日が良い日、という意味だろうか。寒い日も暑い日も、晴れた日も雨の日も良い日。人生にも快晴の日もあれば、大雨の日もある。厳冬だと思われた季節でさえ、良い日だと思える心境。そんな典子の気づきが描かれている。
先月紹介した「万引き家族」をはじめ、山崎努と共演した「モリのいる場所」など、昨年公開された樹木希林さんが出ている映画を立て続けに観た。最期の最期まで、本当に精力的に、集大成のように映画に出演していたのだと思う。黒木華、多部未華子という二人の若い女優との共演をどのように感じていたのだろうか。武田先生の「うん、うん」と言いながら、まろやかに典子と美智子を見守る温かい眼差しが希林さん本人のものと重なって見えた。
 【戸田 照朗】
 監督・脚本=大森立嗣/音楽=世武裕子/出演=黒木華、樹木希林、多部未華子、鶴見辰吾、鶴田真由、原田麻由、川村沙也、滝沢恵、郡山冬果、岡本智礼、山下美月/2018年、日本
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 「日日是好日」、DVD&ブルーレイ好評発売中、DVD税別3900円、ブルーレイ税別4800円、発売元=ハピネット/パルコ、販売元=ハピネット

©2018「日日是好日」製作委員会

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