日曜日に観たい この1本
クボ 二本の弦の秘密
アメリカのアニメーション制作会社ライカが作ったストップモーションアニメーション。
満月の夜、北斎の絵に出てきそうな大波の中を小舟に乗る十二単(じゅうにひとえ)を着た美しい女性。波に飲まれ、やがて浜辺に漂着する。彼女の傍らにはカブトムシの家紋がついた風呂敷に包まれた赤ちゃんが泣いていた。彼の名前はクボ。片目を祖父である月の帝に奪われたという。
少年となったクボは日々心が壊れていくような母を見守りながら、浜辺の洞窟で暮らしていた。明るいうちは近くの町に出て大道芸を見せて投げ銭を稼ぐ。クボには不思議な力があった。三味線を弾くとクボの心のままに折り紙が動き出すのだ。いつも演じるのは、ハンゾウという武者と月の帝との戦い。しかし、クライマックスを前に、日暮れとともに話を終えてしまう。不平を言う観客たち。
理由があった。クボは話の結末を知らないようなのだ。実はハンゾウはクボの父で、月の帝の娘である母との間に生まれた。ハンゾウとその軍は母とクボ、そしてクボの片目を守って死んでいった。母はハンゾウの武勇伝を語って聴かせるが、記憶があいまいで、中途半端に終わってしまう。
母からの言いつけが3つあった。日暮れまでに戻ること。木彫りの猿の人形をいつも持ち歩くこと。クワガタムシの家紋が入った父の服をいつも着ること。
ところがお盆が近づいたある日、町でいつも親切にしてくれるおばあさんから、灯篭を持って墓参りをすると死者と話しができると聞いたクボは、手作りの灯篭を手に父の墓参りをするが、やがて日没を迎え、母の言いつけを破ってしまう。現れたのは、月の帝から刺客として送られた母の二人の妹、つまりクボの叔母たちだった。
クボは、口のうるさい猿と、呪いのためにクワガタに姿を変えられてしまった武者とともに月の帝と戦うために必要な3つの武具を探す旅に出る。
「桃太郎」や「オズの魔法使い」のような展開にワクワクする。
舞台は日本。時代は平安時代から江戸時代の文化がごちゃまぜになった感じで、どの時代とは言えないが、ざっくり「昔話に出てきそうな時代」といったところだろうか。町の大通りの入口に大きな赤い鳥居が建っているのに、どこにも神社の社殿のようなものがなかったり、灯篭流しをする川のすぐそばにたくさんの墓が並んでいて、こんなところに墓は作らないだろうと思ったり、衣装など中国っぽいものも混じっていたりと、細かいところを見れば変なところもあるが、製作者は日本が好きなんだろうなぁ、と思わせる熱のようなものが伝わってくる。
人形を少しずつ動かしながら撮影するストップモーションアニメーションは気の遠くなるような時間と労力が必要となる。登場人物の表情や動きなどが実に見事に生き生きと表現されていて、それだけでも観る価値がある。
月の帝の娘である母。これは、「かぐや姫」を連想させる。月に戻った「かぐや姫」が再び地球に戻ってハンゾウと恋に落ちたのか。「かぐや姫」のアナザーストーリーのような感じもする。月の人である母と人間である父との間に生まれたクボは言わばハーフ(最近はダブルと言うのかな)だ。月の帝である祖父はなぜ孫であるクボの目を奪おうとするのか。三味線は三本の弦が必要なのに、なぜタイトルは「二本の弦」となっているのか。観終わった後も、様々な想像が頭に広がった。
【戸田 照朗】
監督=トラヴィス・ナイト/声の出演=アート・パーキンソン、シャリーズ・セロン、マシュー・マコヒー、ジョージ・タケイ、ルーニー・マーラ、レイフ・ファインズ/2016年、アメリカ
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「クボ 二本の弦の秘密」、ブルーレイ、スタンダード・エディション税別4800円、DVD税別3800円、発売・販売元=ギャガ