日曜日に観たい この1本
バトル・オブ・ザ・セクシーズ
この作品を観ながら、どこか「ロッキー」に似ていると思った。
わずか40年前はこんな時代だったのかと思う。昨年、大坂なおみ選手が日本人で初めて全米オープンテニスで優勝した。決勝で対戦したセリーナ・ウイリアムズとともに敬意を持って迎えられたと思う。しかし、1970年代のアメリカの状況は今とは違っていた。ウインブルドンでも優勝を果たし、全米オープンを制し、名実ともに女子のトップ選手となったビリー・ジーン・キングだったが、次期大会の女子の優勝賞金を男子の8分の1にするという全米テニス協会の発表に憤る。理由は女子の試合はスピードも人気も男子に劣るというもの。ビリー・ジーンは、ほかの女子選手や著名なジャーナリストで友人のグラディス・ヘルドマンの協力を得て、女子テニス協会(WTA)を設立。女子だけのツアーを始める。自分たちでチケットを売り、ラジオに出演して宣伝。スポンサーもついて、賞金や交通費などの経費の目処も付いた。
当時は男女平等を訴えるウーマン・リブ運動が隆盛だったころ。保守的な男性たちにイライラが溜まっていたのだろう。全米テニス協会の男性幹部たちも高圧的で、徹底的に女性を見下している。テレビなどで「女は台所と寝室にさえいればいい」と公言してはばからない。その代表的な存在が、かつて男子の名プレーヤーだったボビー・リッグスだった。55歳になったボビーは一線を退き、ギャンブル依存症の治療を受けていた。隠れて賭け事をしていたこと
が妻にバレて夫婦の危機に。再び注目を浴びて妻の気を引こうと、女子選手と大金をかけて試合をして、彼女たちの鼻をへし折ることを思いつく。
ボビーは女子テニス界の「顔」であるビリー・ジーンに試合を申し込むが、断られてしまう。そこで、ビリー・ジーンのライバル、マーガレット・コートと試合をすることにする。果たして、マーガレットはボビーに完敗。試合後、ボビーは女子テニス界に向けて、なおも執拗な挑発を続ける。それは、ビリー・ジーンをおびき出す手だった。ビリー・ジーンはついに覚悟を決め、ボビーの挑戦を受けることに。それは、不平等に苦しむ女性を解放す
るための、絶対に負けられない戦いの始まりだった。
ビリー・ジーンとボビーの試合のシーンは本物の試合を観るように、思わず声をあげて応援していた。
この作品には、もうひとつの葛藤も描かれている。ビリー・ジーンは優しい夫、ラリー・キングと結婚しているが、記者会見の前に髪を切ってくれた美容師マリリンを好きになってしまった自分に戸惑う。そんなビリー・ジーンの気持ちを理解してくれたのは、ツアーに同行している男性デザイナーだった。おそらく彼もLGBTなのだ。
昨年は大学入試での女性への差別や政治家のLGBTへの差別表現が問題となった。この作品を観ると70年代はもっと露骨に差別が行われていたことがわかる。ビリー・ジーンのような人の勇気ある戦いが少しずつ世の中を変えてきたのだと思う。
【戸田 照朗】
監督=ヴァレリー・ファリス&ジョナサン・デイトン/脚本=サイモン・ボーフォイ/出演=エマ・ストーン、スティーヴ・カレル、アンドレア・ライズブロー、サラ・シルヴァーマン、ビル・プルマン、アラン・カミング、エリザベス・シュー、オースティン・ストウェル、ナタリー・モラレス/2017年、アメリカ、イギリス
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