本よみ松よみ堂
鈴木るりか著 『14歳、明日の時間割』

中学生作家が描く悩みや孤独、老いや死

14歳、明日の時間割

鈴木 るりか 著

小学館 1300円(税別)

 この作品を読んで、まず、だれもが抱くであろう感想を書いておこう。
 「この小説を中学生が書いたなんて信じられない」。
 書店にデビュー作の『さよなら、田中さん』(小学館)と並べて置いてあったので、2冊とも読んでみた。デビュー2作目となる『14歳、明日の時間割』は、さらに洗練され、うまくなっている。
 カバーの著者プロフィールには、まだあどけなさの残る少女の写真が載っている。小学4年、5年、6年の時に史上初3年連続で小学館主催の『12歳の文学賞』大賞を受賞。現在は都内の中学3年生だという。
 『さよなら、田中さん』は昨年10月、著者が中学2年生の時に出版された。「いつかどこかで」は小学6年生時の受賞作、「Dランドは遠い」は小学4年時の受賞作を大幅に改稿。「花も実もある」「銀杏拾い」「さよなら、田中さん」が書き下ろしで、5編の連作短編集の形をとっている。
都内に住む小学6年生の女の子、田中花実とそのお母さんの話を中心に、表題作で最後に出てくる「さよなら、田中さん」だけが花実の友達の男の子、信也の視点で描かれている。
 花実の家は母子家庭で、お母さんは男に混じって工事現場で真っ黒になって働いている。このお母さんが生命力に溢れていて豪快で楽しい。ふたりが住むアパートの大家のおばさんや、おばさんの引きこもりの息子・賢人、近所の激安スーパーの社長や、担任の木戸先生など、登場人物が生き生きと描かれている。花実の家は常に家計が苦しく、いつも節約、節約、の生活。子どもでも否応なく感じる格差社会や中学から始まる受験など、底辺に流れる問題は実は深刻なのだが、ユーモアにあふれた筆致でページが進む。
 先月出版された『14歳、明日の時間割』は地方の中学校が舞台。「一時間目 国語」「二時間目 家庭科」「三時間目 数学」…というふうに時間割に見立てた7編の短編が収められている。全て書き下ろし。
 「国語」は、著者自身をモデルにしたと思われる中学2年生の三木明日香の話。明日香は、中学生ながら文学賞を受賞して作家デビューし、小さな田舎町ではちょっとした騒ぎとなった。明日香の担任の国語教師・矢崎先生は作家を目指して20年以上も作品を投稿しているが一次審査も通らない。先生は原稿を編集者に見て欲しいと明日香に原稿を託す。明日香も原稿を読んでみたが、これが面白くない。その冷徹な分析にゾワリとする。
 ほかの6編は明日香の同級生と矢崎先生の話だ。
 卓球部の有力選手なのになぜか家庭科クラブに入ってきた野間君。模試で数学の点数の低さに愕然とする坪田君。家から両親がいなくなり、ミチという見知らぬ青年と暮らすことになった松尾君。女子のグループにうまく入れず、読書好きの少女を演じることにした山下さん。とにかく体育が苦手で、クラス対抗になったマラソン大会が憂鬱でしょうがない星野茜。
 苦手な教科や、仲間に入れないという、だれもが思い当たる中学生の悩みを切り口に、孤独や介護、老いや死といった問題まで描いている。
 それぞれの話の中に登場する中原君という少年。スポーツ万能で成績も優秀。優しくて屈託がない。ふわりと現れて、現実に悩む登場人物を光の見える方向へと導くような役割を果たす。著者の身近な世界を描いているようで、小説らしいフィクションの部分を体現している存在が中原君のように感じる。
【奥森 広治】

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