本よみ松よみ堂
猫のお告げは樹の下で
迷える人に告げられた7つの言葉から生まれる7つの物語
猫のお告げは樹の下で
青山 美智子 著
宝島社 1300円(税別)
雑居ビルと古いアパートの間の細い道を進むと小さな神社がある。拝殿の近くにはタラヨウという木が立っている。タラヨウは別名「葉書の木」とも言い、ハガキの語源にもなったという説がある。葉の裏に何か尖ったもので字を書くと、茶色い文字が残り、消えない。葉には参拝に訪れた人の願いなのか、様々な言葉が刻まれている。
7篇からなる連作短篇集。7人の迷える主人公たちが偶然訪れたこの神社で白黒の猫に出会う。猫は全体的に黒く、額から鼻にかけて八の字を描くように白い。お尻に白い星印がある。猫は神職の間でミクジと呼ばれている。タラヨウの樹がある神社にふらっと現れて、おみくじみたいに1枚の葉を落としていく。
ミクジは、ちびくろサンボのバターになってしまう虎のように樹の周りを猛スピードで走りまわり、急に止まったかと思うと、樹に左足をかける。すると葉が1枚落ちてくる。この葉に書かれた言葉が「お告げ」だ。
憧れの先輩に失恋した新人美容師のミハルには「ニシムキ」。
思春期を迎えた娘との関係に悩む耕介には「チケット」。
就職活動中で自分が本当は何をしたいのかがわからない田島慎には「ポイント」。
単身赴任した息子の嫁と孫と同居しながらも疎外感に不満を募らせる哲には「タネマキ」。
転校してきた学校でクラスのボス的児童に目を付けられて、毎日苦痛を味わっている小学4年生の深見和也には「マンナカ」。
若いママ友や無関心な夫との関係に悩みつつ、漫画家への夢が捨てきれない千咲には「スペース」。
占い師「彗星ジュリア」として有名になり、テレビのバラエティ番組にも出演しているが、本当にやりたかったこととはずれてしまっていると感じる笑子(えみこ)には「タマタマ」。
それぞれの言葉にはどんな意味があるのだろうか。主人公たちは考え続けることで、迷路は出口に近づいていく。
第7話となる「タマタマ」に出てくる笑子の話が全体のまとめ的役割を果たしている感じもする。笑子は25歳で結婚したが、36歳で離婚し、生活のためにスナックで働いた。たまたま興味を持った占星術を独学で学び、余興でお客を占っているうちに評判を呼んで、有名になってしまった。笑子が占星術鑑定をしていて気づいたのは「平凡な人」なんてひとりもいないということ。
どんな人生にもドラマがある。満月も三ヶ月も同じ月であることに変わりがないように、人にもいろんな側面がある。それは小説そのもののあり方のようにも感じる。
ミクジは神様の使いなのだろうか。神社は小さいが掃除が行き届いていて清々しい。案内役、あるいは解説者のように、タイミングよく現れる宮司も、どこか人間離れしているように感じる。
神社ではないが、流山の光明院でタラヨウの樹を見たことがある。やはり葉の裏に参拝者の様々な願いが刻まれていた。
【奥森 広治】