日曜日に観たいこの1本
ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書
1971年、ニクソン政権下のアメリカ。軍事アナリストのダニエル・エルズバーグは国防総省のロバート・マクナマラ長官の指示でベトナム戦争の戦況を現地で調査し、7000ページにも及ぶ調査報告書にまとめた。しかし、マクナマラ長官は記者団に戦況は好転しているとウソの発表をしていた。エルズバーグは調査報告書を密かに持ち出し、全ページのコピーをとった。そして、その一部をニューヨーク・タイムズにリーク。このスクープが衝撃だったのは、国防総省はもう何年も前から戦争に負けることを知っていたということ。戦争が終わらないのは共産主義の拡大を防ぐためではなく、アイゼンハワー、ケネディ、ジョンソン、ニクソンの歴代大統領が「戦争に負けた大統領」になりたくなかったからなのだ。そんな理由で多くの若者が戦地に送られ、死んでいった。国民の反戦機運はますます高まった。
ニューヨーク・タイムズのライバル紙、ワシントン・ポストの編集主幹ベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)は調査報告書(ペンタゴン・ペーパーズ)の残された部分の入手に奔走する。ワシントン・ポストの社主キャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)がマクナマラ長官と旧知の仲であることから、協力を求めるが断られてしまう。そんな時、謎の女性が編集部に箱を持ってきた。中身はなんと調査報告書の別の一部だった。この後、記者たちは調査報告書の全文を求めてさらに奔走することになる。
後に民主党本部を盗聴したウォーターゲート事件で失脚するニクソン大統領がかなり悪辣な存在として描かれている。ニクソンがどんな手を使って新聞社の口を封じてくるかもわからない。政府はニューヨーク・タイムズに記事の差し止めを要請。裁判に負ければ関係者は投獄される可能性がある。
一方、ワシントン・ポストの経営を支えているのは子会社のテレビ局。放送は政府に許認可権がある。折悪しくワシントン・ポストは株を上場したばかりで、上場が取り消されれば経営危機に陥る。
根っからの記者であるブラッドリーは世紀のスクープを前に、なんとしても記事を世に出したいが、社主のキャサリンには経営者としての責任もある。先代から社長を引き継いだ夫が自殺し、社長に就いたが、経営幹部からは頼りないと思われている。だがワシントン・ポストはグラハム家の家族経営で、キャサリン自身、誰よりも新聞を愛している。会社の存続と報道の自由の間で一番苦しんでいるのはキャサリンだった。
監督のスティーブン・スピルバーグは、今だからこそこの作品を制作したのだと思う。主演のメリル・ストリープは就任直後のトランプ大統領を痛烈に批判していた。やはり、ハリウッドはリベラルなのだと思う。そして、こんなところでも民主主義が機能しているアメリカを羨ましく思う。
トランプ大統領は自分を批判するメディアを差別し、フェイクニュースだと決め付ける。日本でも安倍首相から特定の新聞が名指しで批判されたり、ネット上で叩かれたりしている。そして、多くの公文書が破棄され、あるいは隠され、真相が分からなくなっている事件が相次いでいる。
「新聞は権力を監視するもの」。「報道の自由を守るのは報道」。ブラッドリーの言葉は、実は当たり前のことを言っているだけなのだが、新鮮に映るから恐い。
【戸田 照朗】
監督・製作=スティーブン・スピルバーグ/出演=メリル・ストリープ、トム・ハンクス、サラ・ポールソン、ボブ・オデンカーク、トレイシー・レッツ、ブラッドリー・ウィットフォード、アリソン・ブリー、ブルース・グリーンウッド、マシュー・リス/2017年、アメリカ
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「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」ブルーレイ+DVDセット、発売元・販売元=NBCユニバーサル・エンターテイメント、発売中、税別3990円