本よみ松よみ堂
婚活中毒
婚活をテーマにしたブラックユーモアミステリー
婚活中毒
秋吉 理香子 著
実業之日本社 1300円(税別)
婚活をテーマにした4編の短編ミステリー。ピリリとブラックなスパイスが効いている。それぞれ50ページほどで、先が気になってどんどん読んでしまう。
一話目の「理想の男」は、40歳を直前に恋人からふられてしまった沙織が、母の勧めで、評判がいいという小さな結婚相談所を訪ねる。その結婚相談所は開発から取り残されてしまったような交通不便な住宅街の中にあった。結婚相談所に入会することに抵抗があった沙織だが、地元の優良企業に勤める42歳のイケメン男性・杉下圭司を紹介され、お見合いをすることになる。
服装や言葉遣い、仕草など、細かいところから男性を値踏みしていく様子は、女性作家ならでは、と思う。
杉下とデートを重ね、結婚相手として申し分のない男だという思いを強める沙織だったが、当初からの疑問が頭をもたげる。こんなに素敵な人が、どうして今まで独りだったのか…?
二話目「婚活マニュアル」は、30歳で独身だった友人が孤独死したことをきっかけに婚活を思い立った圭介が、書店で婚活のマニュアル本を手にする。そこで目にとまった「街コン」の文字。パソコンで検索して、バーベキュー・コンパに参加することにした。抽選でテーブルを囲んだのは、看護師だという2人の女性と、ちょっとサーファーっぽいチャラい雰囲気の男・高木、そして圭介の4人。圭介は白い帽子にジーンズ姿の上原愛奈から目が離せなくなる。色白でスタイルのいい美人。もうひとりの女性・田淵靖子はお世辞にも美人とは言えず、はっきり言って愛奈の引き立て役になっていた。
高木ももちろん愛奈ねらいだったが、圭介は運良く愛奈と付き合えることになる。だが、デートを重ねるたびに、ちょっと違うなぁ…というところが出てくる。
男は美人に弱い。バカだなぁ、と思うが、美人が惜しくて後戻りできない。身につまされる話である。
三話目「リケジョの婚活」は、大手電機メーカーでロボットの開発をしている恵美がテレビの人気婚活番組に応募する。本当なら婚活番組になど出て全国に恥をさらしたりしたくないが、番組の予告で次回の参加者の中に舘尾典彦を見つけ、生まれて初めて一目惚れをしてしまった。
私は最近テレビを見なくなったので、よくは知らないが、この話の下敷きになるような番組があるのだろうか。一泊二日で男性陣が待つ地方都市に応募した女性陣が会いにいく。若い頃に見ていた、とんねるずの「ねるとん紅鯨団」の婚活版なのかなと想像した。
恵美はパソコンやロボット工学の知識をフルに活用して、絶対に失敗しないよう、準備万端、舘尾典彦の心を射止めるための準備をしてゆく。
四話目「代理婚活」は、忙しくて時間の取れない子どもの代わりに、親が婚活を行う「代理婚活」の話。郁子と益男の夫婦は、35歳になっても全く結婚の気配がない一人息子の孝一のために、「代理婚活」に参加した。子どもに過干渉ぎみの郁子に引っ張られる形で参加した益男は、そこまで親が世話を焼くことに反対だった。ホテルの会場はまるで就職活動の合同説明会のようだ。人気のあるブースには子どもの身上書を手にした親の長い列ができる。いかにも「理想のお嫁さん」という雰囲気の24歳のピアノ教師・吉村葉子の両親のブースにも長い列ができていた。高い競争倍率にため息の出る郁子と益男だったが、数日後、葉子が孝一と見合いをしたいと言っているという返事が。大喜びの郁子。一方で益男がもう一度会いたいと願ったのは、葉子の母、久恵だった。物語はあらぬ方向へと進んでいく。
結婚は人生の一大事…。親と子の世代で結婚観はかなり違ってきているとは思うが、前のめりになりすぎると盲点が増えて、思わぬところで高転びすることも。
4編ともバラエティに富んだ現代の婚活が舞台で面白かった。欲を言えば、もう2~3話読みたかったと思う。 【奥森 広治】